メジャーリーグPRESSBACK NUMBER
直前にトランプ遊びも「まさかのノーヒッター」 秋山翔吾の復帰戦を飾った“先発の5番手”マイリーって誰だ?
text by
ナガオ勝司Katsushi Nagao
photograph byGetty Images
posted2021/05/12 11:01
ノーヒッターを達成したマイリー投手に駆け寄る秋山翔吾(4番)
それでも六回一死から味方の失策で完全試合が崩れ、マイリー自身の四球で二死ながら一、二塁のピンチを迎えた時、心のどこかで「そのうち、ヒットも出るんだろうな」などと思っていた。ところがマイリーは右打者の2番ジョーダン・ルプローを簡単に追い込むと、最後はど真ん中に近い4シーム・ファストボールで左飛に打ち取ってしまった。またしても、飛び出し速度85.4マイル(約137.5キロ)の力のない打球で。
残り3イニング。普段なら一球ごとに緊迫してくるはずが、2人の初球打ちを含み、七回は11球、八回は11球で片付けるものだから心の準備もできない。気になったのは両チーム無得点のまま八回が終わった時点で、マイリーの投球数がすでに106球だったこと。MLBでは、100球を目安に先発投手を交代させることが多いため、次にヒットを打たれたら「お役御免=降板」というタイミングが迫っていた。おまけに九回表の攻撃が長引く。
今季メジャー4人目のノーヒッターを達成
最終回、レッズはインディアンスの守護神クラセに対し、連打で無死一、二塁のチャンスを掴んだ。3番カステヤノスはスライダーに完全に泳がされてマウンド右への緩いゴロ。極端な守備シフトを敷いていたわけでもないので、普通に考えれば1-6-3のダブルプレーという場面だったが、どういうわけか遊撃手が二塁のベースカバーに入らず、二塁ベースの遥か後ろにいる。それなのにクラセは無人の二塁に送球し、不意を突かれた遊撃手が横っ飛びしたものの、グラブに当てて後逸。二塁走者が一気にホームインしてしまった。このプレーにショックを受けたのか、クラセは4番ムスタカスの時にボークを犯してしまい、先のプレーで三塁まで達していた走者が生還。さらにムスタカスがタイムリーヒットを打って、一気に3点を勝ち越した。
ダッグアウトで長く戦況を見守っていたマイリー自身は後に「あの時が一番意識した」と言っているが、最終回になって確かに敵地球場の雰囲気は変わった。どこのファンであれ「ノーヒッター」は別物で、たとえ悪天候+パンデミックによる入場制限で8000人にも満たなかったとは言え、その瞬間を見届けようと球場に残った観客が騒ぎ出したのだ。
ところがそんな喧騒もどこ吹く風。マイリーは間髪入れずに次から次へと変化球を投げ込んで、先頭の代打レネ・リベラを2球で右飛、次打者のシーザー・ヘルナンデスを見逃しの三球三振。最後の打者ルプローをたったの3球で遊ゴロに仕留め、文字通り「あっ」と言う間に今季メジャー4人目のノーヒッターを達成してしまった。