どんな相手にもキック・アンド・ラッシュを……

　その昔、イングランド人の監督はパッション第一だった。勝因に精神力を挙げ、敗因はレフェリーのミスジャッジに求める。采配ミスには言及せず、対戦相手の分析を怠る者も少なくはなかった。

　シティやブラックバーン、サウサンプトンなどで指揮官を務めたマーク・ヒューズは、その典型といっていいだろう。感情論を優先する上司には仕えたくない。

　また、戦略・戦術を持たず、どんな対戦相手にもキック・アンド・ラッシュを仕掛けるタイプも多かった。少年時代から「遠くに蹴れ、強く当たれ」と指導されてきた世代が、ポゼッションやショートカウンターという戦い方を思いつくはずがない。

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　それでも彼らは就職先に困らなかった。超一流の監督を招き入れる魅力も経済力もないクラブは、イングランド人の指揮官で手を打つしかないからだ。

　大成功を収められなくても、命からがらのプレミアリーグ残留でも、サム・アラダイス、アラン・パーデュー、スティーブ・ブルース、トニー・ピューリスなどには、毎年のようにオファーが届いていた。

メイソンはあくまで今シーズンいっぱいの暫定監督

　本稿執筆時点で、今季プレミアリーグのイングランド人監督はトッテナムのライアン・メイソン、アストンビラのディーン・スミス、ブライトンのグレアム・ポッター、フルアムのスコット・パーカー、バーンリーのショーン・ダイシ、シェフィールド・ユナイテッドのポール・ヘッキングボトム、ウェストブロムウィッチのアラダイス、クリスタルパレスのホジソン、ニューカッスルのブルース。計9名だ。

　ニューカッスル、ブライトン、フルアム、ウェストブロムは残留争いを演じており、シェフィールド・Uはプレミアリーグからの降格が決定している。トップ10にイングランド人の監督は、モウリーニョの後を継いだメイソンのみ。英国系を見てもレスターのブレンダン・ロジャーズ（北アイルランド）、ウェストハムのデイビッド・モイーズ（スコットランド）の2人だけだ。

　哀しくも、これが厳しい現実だ。

　優勝、もしくは常時チャンピオンズリーグ出場を義務づけられているようなクラブは、超一流の外国人監督を招聘する傾向が強い。チェルシーは、サポーター間で不人気だったマウリツィオ・サッリを1年で見切り、レジェンドのフランク・ランパードを監督に起用したものの、1年6カ月で解任。後任はドルトムント、パリ・サンジェルマンで好成績を残してきたトーマス・トゥヘルだ。

　またトッテナムも、メイソンはあくまで今シーズンいっぱいまでの暫定監督だ。後任の有力候補はリーズのマルセロ・ビエルサ、かつてリバプールやチェルシーを率いたラファエル・ベニテス、さらにロジャーズ（現レスター監督）などで、イングランド人の名前は挙がっていない。

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