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天下分け目の天皇賞・春「トウカイテイオーvsメジロマックイーン」を奇跡的な一戦にした“執念の血”とは
text by
島田明宏Akihiro Shimada
photograph byBungeishunju
posted2021/05/02 06:02
29年前の天皇賞・春はメジロマックイーン(青帽)とトウカイテイオー(桃帽)という執念の血が流れる2頭の名馬がぶつかり合った
トウカイテイオーの1番人気でゲートが開く
決戦を前に、トウカイテイオーの調教に騎乗した岡部はこうコメントした。
「地の果てまで伸びて行くようだ」
それを知った武がこう返した。
「あっちが地の果てなら、こっちは天まで昇りますよ」
対決ムードが盛り上がり、決戦当日を迎えた。
トウカイテイオーが単勝1.5倍の1番人気、メジロマックイーンが同2.2倍の2番人気。武に乗り替わってから、すべてのレースで単勝1番人気、それも1倍台という「指定席」を、初めて他馬に譲りわたした。
パドックでも本馬場入場でも、人々の熱い視線が2頭に注がれた。
チリチリするような緊張感のなか、第105回天皇賞・春のゲートが開いた。
すべての時間が、この2頭を軸に動いていた
4枠5番のメジロマックイーンは速いスタートを切った。が、自分のリズムで走りながら他馬を先に行かせ、中団につけた。
8枠14番のトウカイテイオーは、マックイーンをマークするように、その2馬身ほど後ろにいる。
1周目の4コーナーを回るとき、武がちらりと後ろを見た。テイオーのポジションを確認したのか。
正面スタンド前で、武はマックイーンを馬群の外に持ち出した。そこから徐々にポジションを上げ、4番手で1コーナーを回った。
向正面に入るとマックイーンとテイオーの差がややひろがり、3馬身ほどになった。
マックイーンが楽な手応えなのに対し、テイオーの岡部は促し気味に手を動かしている。
3コーナーでマックイーンが外から動きはじめた。ロングスパートをかけて、自身に有利なスタミナ勝負に持ち込む算段だろう。
トウカイテイオーも、ワンテンポ仕掛けを遅らせて上がってきた。岡部が手綱を抑えたままマックイーンの1馬身半ほど後ろまで接近した。
スタンドが沸いた。
マックイーンが先頭に立って4コーナーを回った。外からテイオーが並びかけようとする。
すべての時間が、この2頭を軸に動いていた。最後の直線。誰もが、2頭の歴史的名馬によるマッチレースを期待した。
武のゴーサインを受けたマックイーンが独走態勢に入った。