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寺地拳四朗が“酩酊事件”を乗り越え涙のV8を達成するまで 「今までよりもボクシングの深い話ができるように」
posted2021/04/26 17:00
text by
渋谷淳Jun Shibuya
photograph by
Kyodo News
WBC世界ライト・フライ級タイトルマッチが24日、エディオンアリーナ大阪第1競技場で行われ、チャンピオンの寺地拳四朗(BMB)がランキング1位の挑戦者、久田哲也(ハラダ)に3-0判定勝ち。国内歴代6位タイとなる世界タイトル8度目の防衛に成功した。
デビューから無敗の17連勝で世界王者の29歳とキャリア46戦で10敗し、これが2度目の世界挑戦となる36歳のマッチアップ。最終スコアは119-108、118-109、118-109だから、拳四朗が難なく圧勝したという見方に説得力はある。ただし、ただ一方的な試合だったかといえばそうではない。そこには両者の思惑があり、巧妙な駆け引きがあり、テクニックのやりとりがあった。拳四朗の参謀である三迫ジムの加藤健太トレーナーの話から試合を読み解いてみたい。
拳四朗はチャレンジャーの作戦にはまらなかった
拳四朗は小刻みにステップを踏んで、出入りのスピードと旺盛なスタミナを武器に展開するアウトボクシングを得意としている。久田が勝利するには「拳四朗をつかまえる」というミッションを成し遂げなければならないと思われた。ところが久田は初回、あまり自分からは攻めず、その意図をつかみかねた。
加藤トレーナーが解説する。
「久田選手は拳四朗をつかまえようと中に入ってくるはずだ。たぶんこちらはそう考える。そう久田選手は読んでいたと思うんです。ところが久田選手は1ラウンドに出てこなかった。誘い込んで入り際を狙ってきた。追うと追うだけ拳四朗は逃げる。やみくもに追いかけても捕まえられない。久田選手はそう考えたんだと思います。それはこちらも想定していたことではありました」
久田が相手の裏をかこうとしたのかどうかは分からないが、結果的に拳四朗はチャレンジャーの作戦にはまらなかった。決して深追いせず、ジャブ、ジャブで試合を組み立てた。そして2回、拳四朗がワンツーでダウンを奪う。チャンピオンにとっては圧倒的に優位な状況ではあったが、加藤トレーナーが手綱を緩めることはなかった。
「これは試合前から分かっていたことですが、久田選手は作戦を遂行する能力が高い。誘い込んで入り際を狙う。そしてラウンドのラスト30秒にペースを上げて手数を増やしてくる。今回はその作戦をしっかりやってきました。相手が狙っているのが分かったので、その分、拳四朗も警戒してプレッシャーが緩くなったところがありました」