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実業団若手選手の「移籍」が急増しているのはなぜか? 独禁法違反の恐れを指摘されて水面下では… 

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佐藤俊

佐藤俊Shun Sato

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posted2021/04/14 17:02

実業団若手選手の「移籍」が急増しているのはなぜか? 独禁法違反の恐れを指摘されて水面下では…<Number Web> photograph by JIJI PRESS

全日本実業団駅伝で走る選手たち

「早期退社は、一概に選手だけに責任があるということではない」

 ある実業団の監督はそう語る。

「企業は良い選手がほしい。そう考えると早い段階で目星をつけて、学生時代から経済的に支援しているんです。選手は企業のお金で遠征や大会に行って力をつけていくんですが、中には1、2年はパっとせずとも3、4年で開花する選手もいる。早い段階で行く先を決めてしまうと、3、4年の時に伸びて他のチームから打診があっても、もう決めてしまったからとそのまま支援してもらった企業に行くんです。でも、実際に入社すると自分のイメージと異なり、またSNSや友人の話から他企業との環境の違いに驚き、移籍を考えるようになるんです」

 言葉は悪いが企業側がアメで選手を縛り、選手は入社後のビジョンや仕事についてあまり考えずに卒業していく。入社後、いざ仕事や練習が始まると自分に合わないことに愕然とし、出ていくことを考える。少し前までは、そこで踏み止まっていた選手も多かったが、最近になってすぐに移籍を考える傾向が増えているのは、昨年の出来事が大きく影響している。

新規程で生まれた「自由選択」の裏で……

 昨年2月、公正取引委員会から独占禁止法違反の恐れありと指摘を受けた実業団陸上連合は「円満移籍者でない者の登録申請は無期限で受理しない」との条項を撤廃するなど規程を新たにした。以前の実業団は閉鎖的で、実業団間での移籍は事実上、不可能だった。退部証明が所属先の企業から発行されなければ移籍はできず、チームにフィットしない、あるいは指導者と合わない力のある選手は飼い殺しにも似た状況に陥り、陸上界は優秀な人材を世に出す機会を自ら閉ざしていたのだ。

 だが、規程が撤廃された結果、選手、移籍元、移籍先の3者で移籍協議合意書を取り交わせば移籍が可能になった。移籍協議が合意に至らない場合でも選手登録が可能となるが、駅伝などの一部では1年間の出場待機期間を設けている。

 選手たちは入社して実業団登録をする際にこの内容を説明されるわけだが、この新規程は自由に活動の場所が選択できるというメリットがある一方で、「嫌になれば移籍できる」という考えにシフトしやすくさせているのかもしれない。この意識がマイナスに働いてしまえば、競技者として成績に苦しんだりして困難に陥った時、踏ん張りがきかなくなり、安易に移籍を求めてしまうことになりかねない。

「規程が新しくなる前は移籍って難しい、やりづらいという噂が抑止力になって、その場で頑張ろうって意識が高かったんです。でも、今は実業団登録するときに、移籍ができるという情報を与えている。これは大きいですよ。それを知った上で陸上をしながら他のチームのことを聞いたりして、『今の環境よりも良いところに』と思う選手が出て来てもおかしくないし、実際に出てきて移籍している」(ある実業団の監督)

【次ページ】 中小の実業団が窮地に立たされる可能性も

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