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39歳になる内海哲也が投げ続ける理由 「子どもたちにもう一度、一軍で投げているお父さんの姿を見せたいんです」
posted2021/04/12 06:00
text by
石田雄太Yuta Ishida
photograph by
KYODO
ジャイアンツのエースについて菅野智之に話を訊いたとき、彼がこう言っていたことがある。
「僕は、周りへ影響を与えられるかつての内海(哲也)さんのようなエースでいたい。僕は入団したときから内海さんの背中を見て育ってきましたし、内海さんには影響力がありました。そういうジャイアンツの伝統を継承していくことが僕に課せられた最後の使命だと思っています」
昨秋、ジャイアンツから戦力外通告を受けた宮國椋丞も内海に心酔、年明けの自主トレに参加した。この3月、ベイスターズへ育成枠で入団が叶ったとき、宮國が内海への感謝の思いを語ったことが印象に残る。
今年、内海は39歳になる。ライオンズへ移籍して3年目、3月に入ってからの教育リーグで内海は安定したピッチングを続けている。
「もうあとがないと思うと、昔より緊張しますよ。ここでしっかり抑えたら、もしかしたら(一軍に)呼ばれるかもしれないという状況になると、緊張してきて思うように投げられなかったりするんです。1勝も遠いけど、一軍が遠い。やっぱり一軍で投げてナンボの世界ですからね」
「もう一度、一軍で投げている姿を見せたいんですよ」
内海ほどの経験と実績があっても野球人生の崖っぷちに立たされたと思うとプレッシャーを感じるものなのか……以前、400勝投手の金田正一さんが「お客さんが5万人でも1人でも、その人の期待に応えたいと思ったらその時点でワシにはプレッシャーなんや」と話していたことがあったが、じつは内海にも期待に応えたいとその視線を意識せざるを得ない、大切なまなざしがある。
「中学生と、2人の小学生の息子が少年野球をやっていて、ウチの子どもたちが一生懸命やっている姿を見ると『もうひと踏ん張り、頑張りたいな』という気持ちになります。子どもたちにもう一度、一軍で投げているお父さんの姿を見せたいんですよ。たぶん僕がジャイアンツで投げていたときのことは覚えていないと思うんで、彼らの中で僕は“偉大なお父さん”でありたい。だからこの歳になっても、第一線で投げる姿を見せたいと思って頑張っています」
多くのピッチャーにとって、今も内海は偉大なエースだ。そして内海は子どもたちの前で偉大なお父さんでありたいと、今日も誰よりも早く球場へ着いて、練習に励んでいる。