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【センバツ】「初戦は負けない」明徳義塾“馬淵神話”はなぜ崩れた? 苦言も「あれは明徳の守備とは言えない」
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中村計Kei Nakamura
photograph byKYODO
posted2021/03/19 18:35

初戦で仙台育英に敗れ、引き揚げる明徳義塾ナイン。右手前が馬淵監督
「マシンのスピードを速くして打ち込んできたんですけど、マシンでは体感できない軌道でした」
代木は伊藤のストレートに完全に差し込まれ、空振り三振に終わる。
地元のライバル校、高知高校には中学3年時に150キロ(軟式)をマークした怪物右腕、森木大智がいる。そのため明徳は日頃から森木を意識し、マシンのストレートを速めに設定していた。が、いわゆる「キレ」は伊藤の方が上だった。馬淵が言う。
「森木君とは球質が違いましたね。甲子園(のスピード表示)は3キロぐらい速く出るので、伊藤君の実際の球速は140キロちょっとでしょう。でも、スピン(のかかり方)は伊藤くんの方が上でした」
馬淵「あれは明徳の守備とは言えない」
想像と実際。そのギャップに驚かされたプレーがもう1つあった。馬淵が言う。
「仙台育英の選手は、とにかく足が速い。普通なら余裕を持ってアウトになるようなタイミングなのにギリギリ。ほんと、速い。自信持ってますよ。よくあれだけ足の速い選手を集めましたね」
序盤から中盤にかけ、守備力を売りにしている明徳らしからぬプレーが続出した。2回には、唯一、昨年からのレギュラーであるショートの米崎薫暉が、完全にセーフのタイミングだったにもかかわらず、無理に一塁に送球してセカンド進塁を許してしまう。結果、傷口が広がり、先制点を許した。馬淵は、こう苦言を呈した。
「あそこは絶対、ノースローの場面。間に合わないのに投げて、ムードを悪くした。めちゃめちゃ物足りないですよ。あれは明徳の守備とは言えない」
三塁の梅原雅斗もらしからぬミスを犯した。自分の目の前に転がってきたボテボテの三塁ゴロに対し猛然と突っ込み、捕球し損ねる。結果こそヒットになったが、「自分の中ではアウトにできた打球」と唇をかんだ。仙台育英の打者の体感走力は予想以上だった。
「想定はしてたんですけど、実際の方が焦りますね。ギリギリのプレーになることが多かったので……」
明徳はこの試合、リリーフした伊藤にノーヒットに抑え込まれ、合計1安打に終わった。守備では10安打されながらも1点にしのいだが、馬淵は「実力差はあった」と完敗を認めた。
データが教えてくれるものと、決して教えてくれないことがある。明徳は想定不能な人間の「生」の部分に敗れた。
