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トップボートレーサー・守屋美穂32歳が明かす“絶頂期に産休を取るという選択”「正直言って悩みました」
text by
長田昭二Shoji Osada
photograph byBOATRACE振興会
posted2021/03/13 11:02
トップボードレーサーとして活躍しながら一児の母でもある守屋美穂選手
「養成所では、あまりいい思い出はないですね(笑)。2カ月ごとの試験が終わると“外出日”があるんですが、私は試験の成績が悪くて、外出を取り消されたりしてました。関連法規や競技ルールなどの教科が苦手で……。
でも、養成所での生活を『つらい』と思うことはなかった。たしかにラクではないけれど、私にとっては高校時代のほうが大変だったから」
養成所で教わることすべて、特にモーターの分解や組み立てなどはチンプンカンプンだった。でもそれは守屋だけでなく、皆が同じ。言い換えれば、努力次第でどうにかなることであり、努力以外に克服法はない、ということを彼女は知っていた。
「だから頑張りましたよ」
座学では苦戦した守屋だが、実際にボートに乗っての練習は得意だった。養成所内でのリーグ戦で優勝するなどめきめきと頭角を現し、本人もそれなりの自信を持ってデビューを果たす。
「強い選手はたとえ失敗しても同じ失敗は繰り返さない」
しかし、初出場の節(2007年11月、尼崎)では、乗ったすべてのレースで最下位に沈んだ。
「本当のことを言うと、もう少し上に行けるかな、と思っていたんですけど、技術の差が大き過ぎましたね。試運転で、私は本気でターンをしたつもりなのに、先輩から『ターンするのやめて帰って来るのかと思ったよ』って言われたときは、さすがに凹みました(笑)」
それでもそこからの挽回は早かった。デビューから1カ月というスピードで、1着を勝ち取ったのだ。
「いま振り返ると、うれしかった記憶より悔しいレースの記憶のほうが圧倒的に多いんです。勝てたはずのレースを落としたときは、悔しさと興奮で反省もできなくなるほど落ち込むんです。私はどちらかというと引きずるタイプなので……(苦笑)
半面、悔しい思いを忘れないことも大事だなって思うようにもなりました。悔しさが大きいほど同じ失敗を繰り返さなくなるから。もっと言うと、強い選手はたとえ失敗しても同じ失敗は繰り返さない。私もそうなりたいと思っています」
先輩レーサーとして「頑張っている子を応援したいんです」
レーサーとしてのイロハを先輩から教わってきた守屋も、いまは「教える側」の立場だ。後輩に教えを乞われて教えない先輩はいない。訊かれれば“奥義”でさえも惜しみなく伝授する、開かれた関係性が構築されている。水面に出れば賞金を争うライバルでも、それを超えた深いつながりで結ばれている――。
そんなボートレースの世界が、守屋は好きだという。