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トップ30に“大坂なおみ”ただ1人…元世界4位・伊達公子が語る「夢も技術もあるのに“次の世代”が勝てない理由」
text by
山口奈緒美Naomi Yamaguchi
photograph byYuki Suenaga
posted2021/03/10 17:04
伊達が立ち上げたトップジュニア育成プログラム『伊達公子×YONEX PROJECT ~Go for the GRAND SLAM』一期生が“卒業”を迎えた
7回目のキャンプで意志を伝えたところ、伊達からは「今のままじゃダメだよ」と強く念を押され、選考の段階からプロジェクトに携わってきた元世界ランク21位の浅越しのぶからはさらに厳しい言葉があったと、奥脇は打ち明ける。しかし、それで逆に気持ちが固まったという負けず嫌いだ。
奥脇が準優勝した松山の大会もまた、伊達がゼネラル・プロデューサーとして立ち上げたものだった。プロジェクトではまずグランドスラム・ジュニア出場を目標に掲げているが、プロのシステムと同様、そのためには国際大会で勝ってポイントを増やしていかなくてはならない。しかし協会派遣やスポンサー支援の遠征などを除けば、海外の大会を転戦できるのは家庭が経済的に恵まれているごく一部のジュニアに限られる。ならば国内に大会を作るしかない。そして、経験の浅い子供たちにチャンスを広げるためには格の低い大会が望ましい。芽生えたアイデアを短期間で実現させる伊達の行動力はさすがだった。
コロナ禍の中での開催で出場者は日本選手のみ。そこで準優勝したにすぎず、海外での実績があるわけでもない奥脇の判断が賢明だったのかどうか、答えが出るまでには時間がかかるだろう。プロを輩出することがプロジェクトの使命ではない。だから伊達や浅越も手放しで喜ぶのではなく、むしろその覚悟を問うたのだ。
「日本の女子はいつの時代も強いという未来を作りたい」
1月に行なったインタビューで、伊達はこう話していた。
「将来の目標としてグランドスラムを掲げてはきましたが、あの子たちがそこまで行くにはまだ長い時間がかかるし、行けるのかどうかもわかりません。ただ、最近のジュニアたちは90年代と比べてもいいものを持っていると思います。テクニックもそうですし、情報が入りやすい時代なので、グランドスラムというものもイメージしやすい。でも、夢は持っていても、今やるべきことの自覚が足りていないのかなと思います。そこを引き上げてあげることができれば」
夢を持つジュニアたちをサポートしたい、という伊達の思いは真剣だ。しかし、46歳での引退当初からジュニア育成への情熱に燃えていたかというと、そうではない。