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トップ30に“大坂なおみ”ただ1人…元世界4位・伊達公子が語る「夢も技術もあるのに“次の世代”が勝てない理由」
posted2021/03/10 17:04
text by
山口奈緒美Naomi Yamaguchi
photograph by
Yuki Suenaga
2017年に現役生活にピリオドを打った伊達公子が、国内の15歳以下の女子を対象としたトップジュニア育成プログラム『伊達公子×YONEX PROJECT ~Go for the GRAND SLAM』を立ち上げたのは約2年前だった。2019年5月に選考オーディションを行なって最終的に4人を選び、これまでに1泊2日のキャンプを重ねること計8回。先日、最終キャンプをもってプログラムは終了し、記念すべき一期生が“卒業”の日を迎えた。
ささやかなセレモニーが催され、2年間伊達とともに指導に携わってきたプロのコーチ陣ひとりひとりからエールが送られる。最後にマイクを持った伊達は、「私にとっても初めての試みで難しい部分もあったし、うまく伝えられないこともたくさんあったと思います」と切り出し、あきらめずに夢を持ち続けてほしいと激励し、これからの心構えなどを優しく、厳しく説いたあと、「コートではまた会えると思うので、どこかで会いましょう」と約3分半の挨拶を締めくくった。
個々の成長の跡を確かに感じつつも、コミュニケーションの中身には無念も残る。別れの寂しさ、切なさも当然ある。4人を送り出した直後の感情を一言で表すなら、「複雑」という言葉以外にないようだった。現役時代に自分のテニスと向き合っていたときとは別の迷いや歯痒さがあったことだろう。
16歳女子高生がプロ転向へ「気持ちが固まった」
それでも4人に与えた影響は大きく、プロ転向を決心する16歳まで現れた。昨年12月、愛媛県松山市で初開催されたITF公認の国際ジュニア大会『リポビタン国際ジュニア』で準優勝した奥脇莉音。4月から高校生プロとして活動していくという。
「プロジェクトに参加していなかったら、こんな決心はできなかったと思います。プロになりたいということは前から言っていたけど、そのために何かしていたかといえば何もしていなかった。正直、今ほどテニスを楽しめていませんでした。1回目のキャンプのときに伊達さんに『もっとテニスを楽しんで』とアドバイスされて、それからどんどん自分のテニスが良くなってきたんです。目の前の課題を一つずつクリアしていくだけでなく、環境を変えたり、そういう大事なことも自分でしっかり考えて行動に移せるようになったのも、伊達さんやコーチたちのおかげです」