濃度・オブ・ザ・リングBACK NUMBER
ジュリアの“髪切り”が目立ったが…「輝いていて美しい」林下詩美22歳vs上谷沙弥24歳にスターダムの未来が見えた
text by
橋本宗洋Norihiro Hashimoto
photograph byMasashi Hara
posted2021/03/09 11:02
赤いベルトをかけた戦いはトリを飾ることはできなかったが、スターダムの女王の座にふさわしい名勝負となった
トリを飾れなかった“赤いベルト”戦で何をしたか
「最高峰のベルトを持っているという自覚、責任感がありますから。大会の最後を締めることができない悔しさ、そこに選ばれなかった悲しさや怒りは少なからずあります」
林下は2018年8月デビュー、上谷はその1年後にプロレスラーになった。若くキャリアの浅い2人が伸び伸びと試合をするには(事実上の)セミくらいがいい。そんな判断があったのかもしれない。髪切りマッチ後の空気の中で試合をするのは誰だってやりにくい。ただ、そんなふうに慮られること自体、チャンピオンとしては嫌なものだろう。
特別な意味のある試合に挟まれて、林下は後輩でありタッグパートナーでもある上谷と「これぞ新時代のスターダムという試合を見せたい」と語っていた。それは「大きな大会の中で、話題性よりも内容で一番だったと言われるような試合」だ。
そのために彼女たちは何をしたか。いつも通りに全力を出した。林下はパワーを活かした攻撃、上谷は得意の飛び技。印象深いのは林下が前半に見せたボディスラム2連発、キャメルクラッチといった“腰攻め”だ。団体10周年の大舞台、誰もが他の選手より目立ちたいと思う場で、林下はセオリー通りの攻撃で試合を組み立てた。
「一杯食わされそうになった」林下詩美
林下は今のプロレス界の中でも“序盤5分の充実度”が高いタイプの選手だ。組み合ってリストを取り、テイクダウンし、バックを取ってヘッドロックや関節技でダメージを与えていく。そうした基本的な攻防を丁寧に、かつ力強く見せていく。派手ではない技にこそ説得力があり、それが22歳のキャリア3年目とは思えないほどの貫禄につながっているのかもしれない。
「スターダムには朱里、小波という関節技が得意な選手がいます。でも私も柔道のベースがあるので。グラウンドでも負けたくないという気持ちは強いですね」
フィニッシュを狙った技を何度か切り返され「一杯食わされそうになった」と林下。だが窮地を迎えても先に立ち上がり、ラリアットからハイジャック・ボム(相手を抱え上げ、旋回してからのパワーボム)で3度目の防衛を決めた。