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東海大一・サントス、武南・ 江原、岐阜工・ 片桐…得点王3人が語る選手権秘話「バナナシュートは神様の合図で」
text by
熊崎敬Takashi Kumazaki
photograph byHideki Sugiyama
posted2021/01/10 11:02
左から三渡洲アデミール、江原淳史、片桐淳至
選手権は少年たちにとって最高の夢
今日の伝説は、明日の伝説を生む。
サントスの一撃に沸く国立の大観衆の中で、浦和からやって来た男の子が目を輝かせていた。江原淳史、12歳。
「東京の野球少年だったぼくは、浦和に引っ越してサッカーに転向しました。だって、あの街はサッカー少年ばかりですから。中学には小学校で全国優勝した子が7人もいて、彼らとプレーするようになり、気がつけば選手権の大ファンになっていました」
夢は選手権のヒーローになること。Jリーグがなかった当時、選手権は少年たちにとって最高の夢として光り輝いていた。
地元の名手たちと埼玉の強豪、武南に進学した江原は、3年続けて選手権に出場する。1年のときはベンチを温めたが、2年では準々決勝に進出。3ゴールを挙げた。そして最上級生になり、キャプテンとして最後の選手権に臨む。
ちょっと動くだけで全身にビリビリと激痛が
周りの期待とは裏腹に調子は最悪だった。
「満身創痍でした。秋の国体に出たとき、空中戦で頸椎を傷めたんです。ちょっと動くだけで全身にビリビリと激痛が走る。ほとんど気力だけで試合に出ていました」
それでも江原はゴールを決め続けた。1回戦から、敗れた国見との準決勝まで、5試合連続8ゴールを叩き出す。
本来、プレーできない状態にもかかわらず、ゴールラッシュが続いたのはなぜか。
「いま思えば、痛みで変な力みが消えていたのかもしれない。でも、とにかく痛くて。国立行きを決めた南宇和戦の直後、室井(市衛/元浦和レッズなど)が飛びついてきました。うれしいのはわかりますが、こっちは激痛でそれどころじゃない。毎試合点を取るものだから、みんなはケガが深刻なものだとは思いもしなかったんでしょうね」
最後の選手権は、国見との準決勝で幕を閉じた。頂点に届かなかった冬、しかし彼は笑顔で号泣する仲間たちを慰めていた。
「清々しい気分でした。だって夢にまで見た国立でプレーできて、ゴールまで決められたわけですから」