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早大野球部「楽天でもマー君みたいになるんじゃね?」 ドラ1早川隆久が高卒プロ入りを諦め、“155km”無双するまで
text by
田口元義Genki Taguchi
photograph byHideki Sugiyama
posted2020/12/15 17:02
2020年ドラフト会議、最多タイ・4球団から指名を受けた早稲田大学エース・早川隆久。楽天入団を発表した
早川が着手に踏み切ったのは、新型コロナウイルス感染拡大による部活動の休止期間中だった。決断に至れたのは、自問自答できる時間があったこと。そして、トレーニングの過程で改善の余地に気づけたからだった。
違いは、ほんの少しだった。
最重要ポイントは股関節の使い方。右足を踏み出すまでの体重移動の際に、軸足である左足を支える側の股関節を若干、高い位置に設定する。そのことで、力をロスすることなく地面からの反発を上半身に伝えられる――そういった実感を得られたというのだ。
「それまでの走り込みも、体重移動の感覚を養う意味では大事だったのかもしれないですけど、『フォームを改善したい』って大きな決意を持って実行できたことが一番でしたね。うまくハマってよかったですし、『考え方次第なんだな』って気づくことができました」
6勝無敗、防御率0.39……早川は無双した
早川は大きなリターンを得た。
ストレートの球速は3キロ増し、155キロまで伸びた。ドラフト1位を固く誓った男が、覚醒を遂げた瞬間だった。
夏に行われた春のリーグ戦は、コロナ禍の影響で試合数が減ったため1勝に終わったが、従来に近いレギュレーションで開催された秋は、6勝無敗、防御率0.39。46回を投げ74奪三振と、早川は無双した。
圧巻だったのは最終週の早慶戦だ。
連勝すれば優勝の2連戦で、第1戦を託された早川は15奪三振、1失点の完投。翌日の第2戦も、1点ビハインドの8回途中からマウンドに上がった。そして、前日に122球を投げた主将は、この回を無失点に抑え勝利の呼び水となった。9回表に早稲田が逆転。その裏、早川はマウンドで両腕を突き上げ、胴上げ投手となった。5年前の歓喜に憧れ、早稲田大学野球部の門を叩いた高校生が、チーム10季ぶりの優勝の立役者となった。
楽天でもマー君みたいになるんじゃね?
このときすでに、楽天から指名されていた早川、また新たな点が、線へと誘われたような気がした。
チームの絶対エースが優勝を左右する重大な局面で連投し、勝利へと導く――それはまるで、13年の日本シリーズでフル回転した、楽天・田中のようである。
アマチュアとプロ。投手としての能力。ゲーム展開の違い。言うまでもなく、単純に比較できるものではあるまい。だが、リンクする部分だって全くないわけではない。
そう早川にぶつける。反応は悪くない。
「チームメートからも言われました。『前日にあれだけ投げて、今日も投げて勝つって、ほんとすごいわ。楽天でもマー君みたいになるんじゃね?』って。いやいや……。24勝0敗なんて異次元すぎますから。『そういう運命だな』とか言ってもらいましたけど、田中投手と比べるなんて、恐れ多くて……」
謙遜するのも無理はない。ただ、日本シリーズの田中を早慶戦での早川に投影した人間は、確かにいるということだ。
いくつもの点が線で結ばれ、早川を楽天へと導いたのであれば、それもあながち夢物語ではないのかもしれない。
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