野球クロスロードBACK NUMBER
早大野球部「楽天でもマー君みたいになるんじゃね?」 ドラ1早川隆久が高卒プロ入りを諦め、“155km”無双するまで
text by
田口元義Genki Taguchi
photograph byHideki Sugiyama
posted2020/12/15 17:02
2020年ドラフト会議、最多タイ・4球団から指名を受けた早稲田大学エース・早川隆久。楽天入団を発表した
率直に聞く。当時の感情がよみがえったように、早川の言葉が一瞬、詰まる。
「いや……それはありましたね。同世代のピッチャーが上位で指名されていくのを見て、『あぁ……俺も(プロ志望届を)出せばよかったな……』って思った記憶が鮮明に残っています。後悔はありました。でも、すぐに『俺は大学で4年間、頑張ろう!』って思えて。今振り返ると、あの悔しさがひとつの原動力になったのかもしれないですね」
当初は「(プロに行ければ)何位でもいい」
とはいえ、当時はまだ欲が薄かった。
プロには行きたいが、「何が何でもドラフト1位で」という欲求がなかった。「何位でもいい」。それが本心だった。
早川なりの根拠はあった。
「プロの世界は横一線。どんな形でも、入団したら競争に勝つだけだから」
早川を間接的に早稲田へと導き、17年に育成枠でソフトバンクに入団した大竹のこの言葉が、印象に残ったという。事実、彼は1年目で支配下選手となり、一軍マウンドにも立った。そういったいきさつから、プロに入ることそのものに重きを置いたのだ。
「ドラ1、絶対に競合!」冷蔵庫に貼った目標
いわば謙虚。そんな早川が貪欲となり、ドラフト1位の評価を得るまで成熟を遂げたのもまた、先輩たちからの教えがあったからだった。
大学3年の19年ドラフト。プロ注目の打者と呼ばれ、チームの主将でもあった加藤雅樹をはじめ、4人がプロ志望届を提出したが、誰ひとりとして指名されなかった。
「何位でもいい」。謙虚な姿勢は逃げ道となり、やがて隙を生む。かくも厳しい現実を目の当たりにしていた早川を刺激したのが、コーチを務める徳武定祐からの言葉だった。