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《契約更改ウラ話》「彼がいれば誠也らも生きる」と言われても…広島・西川龍馬「すべての数字が物足りない」 

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前原淳

前原淳Jun Maehara

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photograph bySankei Shimbun

posted2020/12/09 17:01

《契約更改ウラ話》「彼がいれば誠也らも生きる」と言われても…広島・西川龍馬「すべての数字が物足りない」<Number Web> photograph by Sankei Shimbun

怪我からの復帰後、10月18日の中日戦の4回に先制本塁打を放つ西川。この日は8回にも本塁打を放ち、自身初の1試合2本塁打を記録した

 広島打線での存在感の大きさと西川自身の自覚によって、開幕から試合に出続けた。打順は3番や1番を任され、7月17日以降は打率3割をキープした。ただ、土台が安定しない影響は各方面に出た。

 走塁では小さくベースターンができず、三塁のベースランニングで三塁コーチと接触しそうになることもあった。中堅守備でも右中間の打球を右翼鈴木誠に任せる場面もみられた。残す数字とは対照的に、打撃への影響が何より大きかった。

「打ち方そのものが違った。踏み込めたと思っても全然踏み込めていなかった。小手先だけ。全然(打球が)飛ばないし、捉えられてもファウルが多い。変な空振りも多い。でもそう打つしかなかった」

 シーズン終了後、当時の感覚をそう明かした。

 今季の打撃は「違う体でやっていた」と感じたほど。言うことを聞かない別人の体で打撃をしているようなものであり、意識しても痛みを覚えている体が本能的にブレーキをかける。振りたくても見逃すこともあったという。

 患部をかばう動きによって知らぬ間にひずみが生じ、違う箇所も痛めた。8月26日にはごまかすこともできなくなり、出場選手登録抹消。クライマックスシリーズのない今季、すでに首位巨人に大きく差をつけられたチーム事情を考えれば、この時点で手術に踏み切る選択肢もあった。

「今年に関してはまったくなかったですね」

 西川はシーズン中の復帰を目指し、リハビリを続けた。チームメートがまだ戦っているシーズンの中、簡単にタオルを投げることはできない。若手から主力への階段を上がろうとする西川の自覚。今季開幕から痛みをこらえながら、戦ってきた意地だったかもしれない。

 10月11日に再昇格して23試合に出場し、85打数23安打だった。打率を落とす結果となったものの、初めて4番を任され、自身初の1試合2本塁打も記録した。

 苦しんだシーズンを乗り越えたからこそ、見えたものもあるはず。そんな記者の理想論に、西川は苦笑いして、あっさり否定した。

「今年に関してはまったくなかったですね。とりあえず、なんか1日終われればそれで良かった。試合に出て、その日なんとか終われれば安心していた部分があった」

 76試合で打率3割4厘、6本塁打、32打点。規定打席には及ばない。まったく異なる感覚の中で残した打率3割も、西川からすると物足りない現実に過ぎない。

 プロ入りから5年で1552打席に立ち、打率2割9分8厘。来季143試合実施され、規定打席(443)を上回る448打席に立てば、2000打席に達する。2000打席以上で通算打率3割以上となれば、現役ではチームメートの鈴木誠也や自主トレをともにする日本ハム近藤健介など数える程度しかない。本人は「そんな打席立っていました?」と驚き、興味を示さないが、万全の状態で臨むシーズン、その期待は自然と高まる。

 11月11日の手術は、来季を見据えたものだ。空白に感じた1年をプラスに変えるためにも、そして西川龍馬という打者の存在を自らのバットで示すためにも、来季はこれまで以上に快音を響かせるに違いない。

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