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【引退】物議醸しがちDF岩下敬輔の“兄貴伝説” ガンバ降格も男気移籍、小野伸二や長谷川健太監督との縁
text by
下薗昌記Masaki Shimozono
photograph byGetty Images
posted2020/12/04 17:01
“荒くれもの”なイメージがある岩下だが、ガンバや清水などでそのパーソナリティーは愛されたのだ
サンフレッチェ広島に逆転勝利を収め、優勝した直後の記者会見で、指揮官は愛弟子をネタにしながら、ユーモアたっぷりに試合を振り返った。
「0対2になった時は持ってねえなあ、と思いながら、また岩下かと思って……。西村さんには試合の前に『岩下にはちゃんと言い聞かせましたので、どうかレッドカードだけは勘弁してください』とお願いして試合に入ったんですけどねえ」
決勝を裁いたのは西村雄一主審だったが、岩下は過去、西村主審から3度もレッドカードを突きつけられていた。
失点に絡んだとはいえ勝利、思わず涙
この決勝では退場処分にこそならなかったものの、岩下が与えたPKで20分に先制を許し、35分にも岩下が絡んだ失点で2点目を許していた。
「健太さんにとっても初となるJ1のタイトルに向けて、自分も今まで一緒に成長させてもらった恩返しとしてもしっかりとプレーしたい」と試合前に話していた岩下にとって悪夢のような展開だったが、3対2で逆転。タイムアップの笛を聞いた瞬間、岩下は埼玉スタジアムのピッチに跪いて涙に咽んだのだ。
大森も宇佐美も岩下を慕っていた
感極まって立ち上がれない岩下の元に駆け寄ったのは途中出場で決勝ゴールをゲットした「弟分」の大森晃太郎である。
歯に衣着せぬ物言いだけでなく、後輩たちへの面倒見の良さでも知られる岩下だが、大森や宇佐美貴史はガンバ大阪時代に彼を慕った男たちだった。
2014年3月のアルビレックス新潟戦でJ1初ゴールをゲットし、2対0の勝利に貢献した大森だが、この試合で先制点を決めていたのは岩下だった。
「敬輔君が点を決めた試合で一緒に点が取れたのが嬉しい」(大森)
遠藤保仁や明神智和ら背中で引っ張るタイプの選手が多いガンバ大阪にあって、岩下は喜怒哀楽を隠そうとはしない、直情径行型の男である。
罵声に近い檄を飛ばすことも珍しくはなかったが、自陣ゴール前では鬼神のごとく相手の攻撃陣に立ちはだかっていた。