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タイソンにデラホーヤまで…“レジェンドボクサーたち”が復帰を目指す「お金だけじゃない」理由とは
text by
杉浦大介Daisuke Sugiura
photograph byGetty Images
posted2020/12/06 17:02
11月28日、54歳になった元世界ヘビー級王者マイク・タイソンがエキシビションマッチで復帰した
ジョーンズ戦後のそんな言葉を聞いて、「Almost too good to be true(素晴らしすぎて嘘みたい)」と感じたファンもいたかもしれない。今回の試合でタイソンは1000万ドル以上を保証されたと伝えられており、大半を寄付にあてるとしても、復帰の背景にビッグマネーの魅力がまったくなかったと言われたら疑わしく思える。
ただ……その一方で、オンラインで公開されたファイトウィークイベント中の姿を見ていても、試合前後の表情を思い出しても、今回のタイソンは確かにお金だけを追い求めているオールドファイターには見えなかったのも事実である。
リング内外でトラブルに見舞われた元王者の晩年は厳しいものだったが、最後の試合から約14年を経て、見違えるように生き生きとしていた。「(引退時は)リングを去れてハッピーだった。ただ、今の私には意欲がある。どれだけ良いファイトができるか世界に示したい」という言葉も偽りには聞こえなかった。
リング上で戦う姿も貫禄たっぷり。そのパフォーマンスは人々の予想以上に上質なもので、おかげでイベント全体が引き締まった。だからこそ、視聴に49.99ドルが必要なPPVシステムで放送された今回のエキジビションマッチ後、アメリカでも不満の声はほとんど出なかったのである。
コロナ禍が生んだ“ユニークなカムバック”は続くか?
「この試合を終えられてハッピー。また先に進んでいくよ」
久々のリング登場を終え、タイソンは気持ちよさそうにそう述べていた。イベンダー・ホリフィールド、レノックス・ルイスらもタイソンが提唱する「レジェンド・オンリー・リーグ」への参加に興味を示しており、名選手のカムバックブームが今後も続く可能性はある。ただ、これから誰がリングに立とうと、やはりタイソンの復帰戦以上に人々の心を揺り動かすことはあるまい。
おそらくパンデミックの中だからこそ実現したタイソンのユニークなカムバック。様々なことがうまくいかない2020年の中で、「人々を励ますため」のファイトは、“コロナ禍の産物”としてボクシングファンの心に刻まれていくのかもしれない。