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生涯賞金22億超なのに「自分にはゴルフのセンスがない」片山晋呉のYouTubeが人気な理由
text by
桂川洋一Yoichi Katsuragawa
photograph byYoichi Katsuragawa
posted2020/11/30 11:01
プロゴルファーのYouTubeチャンネルの中でも突出した登録者数を誇る片山晋呉。的確な技術論は多くのアマチュアゴルファーの拠り所になりつつある
300人のレッスン生にアンケート
動画のテーマを決めるにあたり、月に約300人のレッスン生を持つスタジオに依頼し、一般のアマチュアが何を教わりたいか、というアンケートをとった。ゴルファーに刺さる=再生回数が多いキーワードも「“スライス”や“飛ぶ”はよく見られる」と、トレンドが分かってきたところ。
いわゆる収益面では、「まだ、“スゴイ”ではない」とか。まあ、国内ツアーで史上2番目、生涯獲得賞金で22億円超を稼いだことを考えれば「スゴイ」のラインがちっともわからない。それでも「ようやく、人の給料払えるくらいになったかな」という出来を前向きに感じている。
「自分にはゴルフのセンスがないから」
ところで今、片山のチャンネルが成功している要因は、何もユーザーの嗜好性データだけによるものだけではなさそうだ。賞金王5回、通算31勝の永久シード選手という看板は大きな担保だが、それでも十分な説明はつかない。あらゆる層のゴルファーが知りたいツボを押さえ、そこに寄り添うような技術論への評判が良い。
そもそも、ティーチングは本職ではない。長くツアーのトッププロとして君臨しながら、それをどう身につけたのか?
そんな問いに片山は「自分にはゴルフのセンスがないから」と、あっけらかんと言うのだ。
練習場に勤務していた亡き父に2歳の頃からゴルフを教わり、茨城・水城高、日大という名門ゴルフ部のエリート街道を歩んできたようで、片山は当時、自身がツアーで活躍するイメージを鮮明に描けなかった。
「身体も小さいし、力もない。飛距離もない。だから、プロになろうとは思っていなかった。『日本で一番うまいアマチュアになろう』なんて考えてもいて」
身長171cm。肉体的なコンプレックスにさらに拍車をかけたのが、片山が長年感じてきた、周りの選手たちとの「センス」の差だった。試合会場を見回して、「ここには、教わったことをすぐにできる人、センスがある人がいっぱいいる。でも、オレにはできないのよ」と言った。
「例えば、今でも誰かにスイングを教わりに行くでしょう。一緒にビデオを見て、『はい、こうやってください』って言われて、その場で『こうだな? どうだ!』って実際にやってみる。でも、オレの場合は教わる前となんにも変わってないの(笑)。変わらないのか……って」