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Jリーグ “消える白線” のスプレーっていくらするか知ってる? 意外な野菜で「進化」した誕生秘話
posted2021/03/07 17:00
text by
熊崎敬Takashi Kumazaki
photograph by
J.LEAGUE
2015年からJリーグで使用されるようになった「バニシングスプレー」。フリーキックのボールの位置、ボールから壁までの距離(9.15m)などを示すために主審が使う、消える泡のスプレーのことだ。
現在、日本では「FKマジックライン」という商品が使用されており、1本1480円(税抜)。成分は水、界面活性剤、LPGで、食器用洗剤に近いという。Jリーグの審判は頻繁に使う場合を想定し、2本用意して試合に臨む。
ここでクイズ。この消える泡のスプレーは、試合からあるものを消しました。なーんだ?
答えは、壁の位置をめぐる揉め事。出た、出てないで揉めてカードが出るといった場面が激減、時短にもなると審判団にも好評だ。
そんなFKマジックラインの開発には、なぜか「小松菜」が重要な役割を果たしたという。商品開発に携わった、株式会社クイックレスポンスの悉知秀行さんが語る。
「Jリーグでは当初、のちに液漏れで使用中止になる海外製品が使われていました。その製品が国際特許を取っていたので、弊社は独自色を打ち出すことによって、特許の問題をクリアしようと考えたのです」
“では小松菜で試験を”
長年の鹿島サポーターでもある悉知さんは、芝の保護に着目した。海外製品が芝に影響を及ぼすものなら、影響のない製品をつくれば特許の問題をクリアできるかもしれない――。
「そのことを第三者が立証できる試験ができないかと日本肥糧検定協会に掛け合うと、“では小松菜で試験を”と。“え? 小松菜?”と正直拍子抜けしましたが、小松菜は繊細で、影響が顕著に出るのだそうです」
手始めに試作品を小松菜に吹きかけると、枯れ始めてしまった。これはいけないと悉知さんたちは成分を一つひとつ突き詰めていく。
「何かを抜いて配合目的が同じ別の成分を入れる、そうした原料の選定を数えきれないほど繰り返しました」
小松菜実験を繰り返す中で改良が進み、並行して行なう芝での実験で「わずかな退色は見られるものの、ほぼ影響なし」とのお墨付きを得るに至った。芝の黄変が指摘された海外製品に比べて、影響は格段に少ない。
小松菜を突破口に、製品化に漕ぎつけた「FKマジックライン」。初のお披露目となった'17年ゼロックススーパーカップでは愛する鹿島が3-2で勝利したが、悉知さんがいちばん歓喜したのはフリーキックでラインが引かれた瞬間だった。