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アーティスティックスイミング・青木愛がオリンピック出場を機に23歳という若さで引退を決めた理由
text by
林田順子Junko Hayashida
photograph byShigeki Yamamoto
posted2020/11/18 11:00
8人のうちの7人が辞めて、私一人が残る
だけど、やっと夢が叶った北京オリンピックには、いい思い出が全くないんです。
シンクロにおいてオリンピックに出るということは、メダルを取ることで、メダルを取らなければ出ても意味がないと思っていました。だから「5位なんて」という感じでしたね。もちろん全力を出し切っての5位だったので、悔いはありませんでしたが、今まで先輩たちが築き上げて来たものを私たちが壊してしまったという申し訳なさがすごくありました。
今でも取材などで当時のことを聞かれるんですけど、あまりに悔しい思い出なので、記者の方が期待されているような返答ができないんですよね(苦笑)。
シンクロは30歳まで続ける選手もいますし、北京オリンピックの時は最年長の選手が27歳でした。だから最初の頃は、あと2回はオリンピックに出られる可能性があるなと思っていました。
だけど、北京を一緒に戦った先輩たちが全員、オリンピックが終わったら引退すると聞いて。メンバー8人のうちの7人が辞めて、私一人が残る。
ということは、技術はどうであれ、私は繰り上がって、経験者として新しい7人を引っ張っていかないといけない。
私って小学生の頃から、なぜかずっとチームの最年少で、チームには目標とする先輩がいて、その背中を見ながら育って来た。それが自分が引っ張る立場になって、新しい7人と一緒にチームとして大会に出て、頑張れますか? と自分に問いかけた時に、ちょっと違うかなと思ったんです。
当時のキャプテンみたいには多分私はうまくできない。それだったら私も辞めて、新しい8人で1からチームを作った方がいいのでは、と引退を決めました。
ここからは全力で楽しむ人生に
引退をして、子供たちに指導をしたりして、選手よりも指導者の方が向いているかもしれない、楽しいかもと気付きました。ただ、今はあまり先のことは考えず、いろいろな仕事を楽しみながらやりたいなと思っています。
私、こう見えて、すごく緊張しやすいんですよ。現役時代は試合前にメンバー全員と監督とコーチに背中を叩いてもらって、気合を入れたりと、いろいろ工夫していました。北京前のプレオリンピックの時なんか、緊張のあまり、演技が終わって、緊張から解き放たれた安心感で、お腹が痛くなってしまって。もう私、死ぬかもというレベルで、すぐにドクターに見てもらったほどです。
今、講演会や取材などで、人前に出ることも増えて、緊張をすることもありますが、引退するまでに最大の緊張を味わってきたので、あれを超える緊張というのはもう死ぬまでないでしょう。
だからここから先は、プライベートも仕事も全力で楽しむ人生にしたいなと思っています。
青木 愛Ai Aoki
1985年5月11日、京都府生まれ。地元の名門クラブ・京都踏水会で水泳を始め、8歳から本格的にシンクロナイズドスイミングに転向。ジュニア五輪で優勝するなど頭角を現し、中学2年から井村雅代(現・代表監督)に師事する。2005年世界水泳の日本代表に20歳で初選出されたが怪我で離脱。その後も補欠に回ることが多かったが、不退転の決意で臨んだ北京五輪代表選考会では劣勢を覆し代表の座を獲得。欧米選手に見劣りしない恵まれた容姿はチーム演技の核とされた。北京五輪を最後に現役を引退。現在はメディア出演を通じて幅広いスポーツに携わっている。
ナビゲーターの俳優・田辺誠一さんがアスリートの「美学」を10の質問で紐解き、そこから浮かび上がる“人生のヒント”と皆さんの「あした」をつなぎます。スポーツ総合誌「Number」も企画協力。
第134回
青木愛(アーティスティックスイミング)
11月20日(金) 22:00~22:24
元アーティスティックスイミング日本代表・青木愛さんはジュニア五輪で優勝するなど早くから頭角を現し、2008年にはチーム最年少の23歳で北京五輪に出場。欧米選手に見劣りしない恵まれた容姿はチーム演技の核と言われました。同大会を最後に現役を引退。現在はメディア出演を通じてスポーツの魅力を伝えています。現在35歳。引退から12年が経った今も、世界を魅了した美しいスタイルはあの時のまま。日頃彼女が意識していることを通して、美しさをキープする秘訣を探るほか、番組では新しい趣味であるゴルフを楽しむオフの姿などに密着します。
第135回
マンスリースペシャル
11月27日(金) 22:00~22:24
第132回から第134回までに登場した元サッカー日本代表で現在は指導者の藤田俊哉さん、五輪に2度出場しロンドン大会で銅メダルを獲得した元バレーボール全日本女子の大友愛さん、元アーティスティックスイミング日本代表で北京五輪にも出場した青木愛さん。第135回は未公開シーンを含む3人の総集編をお届けします。