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「腹破らんでくれ! 喉食って殺して!」本当にあった“ヒグマ食害事件”の地獄絵図 

text by

増田俊也

増田俊也Toshinari Masuda

PROFILE

photograph byGetty Images

posted2020/08/10 00:01

「腹破らんでくれ! 喉食って殺して!」本当にあった“ヒグマ食害事件”の地獄絵図<Number Web> photograph by Getty Images

書籍で憧れた人は、現在もヒグマ研究に関わっていた

 私のなかで浪人時代の青春の記憶と現在が繫がったのはつい数年前のことだ。別件で知床半島のことを調べていて、たまたま山中正実さんが知床財団統括研究員としていまもヒグマの研究をしていることを知り、会ったこともないのにメールで「僕は山中さんたち当時のクマ研に憧れて北大に入りました」と送ったら返信が返ってきたのだ。30年近く前に書籍で憧れた人が、現実にいて、現在もヒグマ研究に関わっているということに感動した。

 そして実はヒグマに近い職業に就いているのはこの山中正実さん(現在は斜里町立知床博物館館長)だけではなかった。ためしにネットで検索してみると、間野勉さんは北海道環境科学研究センター主任研究員兼野生動物科長、園山慶さんは北海道大学大学院農学研究院准教授、宇野裕之さんは北海道環境科学研究センター道東地区野生生物室長、松浦真一さんは北海道新聞社編集委員、綿貫豊さんは北海道大学大学院水産科学研究院教授、坪田敏男さんは北海道大学大学院獣医学研究科教授、全員がヒグマの研究や保護、その生態の啓蒙などに携わることができるポジションにいる。

 こうして彼らがヒグマに近い仕事に就いているのは実はたいへんなことである。たとえば何百人もいる北大柔道部OBのうち卒業後も柔道や格闘技の仕事に就いているのは、中井祐樹(現在日本ブラジリアン柔術連盟会長)と山下志功(プロ修斗世界ライトヘビー級元王者)の2人しかいないのだから。読者の皆さんも自分のまわりを見まわしてみてほしい。大学時代は同好の士と集まってそれぞれ音楽をやったりスポーツをやったり探検をやったり政治活動をしていたはずだが、大学時代のサークルの世界をそのまま仕事にしている人はほとんどいないだろう。みな卒業時に夢を捨て、自分の背丈にあった日常に還っていくのだ。

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