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<転身24年目>元SMAP森且行46歳、日本選手権初優勝 7年前に明かしていた「メンバーとの約束」
text by
柳橋閑Kan Yanagibashi
photograph byToshiya Kondo
posted2020/11/04 17:02
悲願の日本選手権制覇を成し遂げた森且行。数々の挫折を乗り越えて歩んできた
「選手としてはもう無理なのかな」
専属のメカニックがいる他のモータースポーツと違い、選手自らマシンを整備しなければいけないのがオートレースの難しいところである。
「でも、それが楽しいんです。機械いじりはもともと好きだし、自分で作ったエンジンに、自分で乗って勝つのは最高ですよ。すべてが自分に返ってくる。それがオートレースの醍醐味なんです」
エンジンの整備を極めるため、専門書を読みあさり、ひたすら“音”に耳を澄ませた。微妙なエンジン音の違いを聴き分けられるかどうかが、チューニングの鍵を握るからだ。
自分なりの整備技術が確立されるにつれ、森の走りにはキレが増していった。そして、ランクトップ10が見えてきた2008年、再び怪我が森を襲う。腰のヘルニアだった。手術を受け、またもやゼロからのスタートを余儀なくされた。
「選手としてはもう無理なのかな」
弱気がのぞくこともあったが、ひたすらトレーニングに打ち込んだ。そして復帰するや、09年の川口開設記念グランプリで、ついにGI初優勝を成し遂げるのである。
「必ず何かが起こるんです(苦笑)」
「俺にはできるんだ!」
自信は甦った。あとはSGを残すのみ──。ところが、以来4年半、足踏みが続いてしまうのである。原因はマシンの規定変更だった。
「自分の調子が上がってくると、必ず何かが起こるんです(苦笑)。タイヤが変わったことで自分の走りができなくなってしまったし、エンジンも『完全に分かったな』と思った頃に、マフラーにサイレンサーが付けられて、音がまったく変わってしまった。2年前にはフレームも統一仕様に変わりました。そうした変更のたびに、 感覚がずれて、ゼロからやり直すことになってしまったんです」