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「那須川天心には勝たれへんやろ」アラフォー裕樹の引退試合! 全てはあの“不良漫画”の世界から始まった
text by
布施鋼治Koji Fuse
photograph bySusumu Nagao
posted2020/10/31 17:02
魔裟斗の時代から那須川天心の時代へ、2人のスターが輝けたのは裕樹の力も大きかっただろう
「那須川の圧勝」と予想する声が大きい
裕樹はRISEで史上初めて3階級を制覇した選手としても知られている。そしてチャンピオンでいることに甘んじることなく、チャンスがあればアウェーのビッグマッチにも積極的に挑戦し続けた。地上波のゴールデンタイムで生中継していた旧K-1、かつては興隆を極めたが最近は選手流出が続くGLORY、新生K-1の対抗勢力としてスタートしながら2大会で消えたBLADE、そして那須川の台頭でMMAだけではなくキックの試合も積極的に組むようになったRIZIN。裕樹の足跡を振り返れば、日本キックボクシングの歴史を辿ることができる。
那須川の活躍によってキックボクシングは再び地上波で視聴できるようになったが、それは裕樹を筆頭するアラフォーの世代が果敢なチャレンジを繰り返し、その炎を絶やさなかったからこそできたことだろう。
巷ではこの一戦を「那須川の圧勝」と予想する声が大きい。無理もない。キックボクサーとしての那須川の戦績は36戦36勝(27KO)といまだ負けを知らない。対照的に裕樹は那須川を上回る70戦以上のキャリアを誇るが、勝った負けたを繰り返している。いくら必殺のローキックを持っているとはいえ、ファンの間では「裕樹のローは天心に当たるのか」というところが争点になっている。それでなくても那須川は動きが速く、同じ場所に立ち止まることはない。
「ハハハッ、天心には勝たらへんやろ」
今回の一戦が決まったとき、裕樹は家庭でまだ幼い息子に「天心に勝つぞ」と宣言した。そのときのリアクションが忘れられない。
「ハハハッ、天心には勝たらへんやろ」
裕樹は「お前なっ!」と息子を半分冗談で怒りつつ、これが世間の一般的な見方だと受け取り、「逆にこれはチャンス」と思った。
「努力すれば、報われるということを息子に見せなければいけないと思いました」
勝負事なので必ずしもそうなるとは限らないが、裕樹は「つまるところ闘いとは相手ではない」という結論に達している。
「結局は自分をいかに限界まで引き上げるかが問題になってくる。試合前に自分に負けていたら話にならない。ただ、自分の限界を知っていないと、限界まで上げることはできない」
自分を極限まで追い込む練習を繰り返すことで、裕樹は少しずつ強くなってきたという実感がある。VS那須川も、最後は気持ちの勝負に持ち込もうとしている。