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ロッテ・美馬学の挫折だらけの野球人生 いつもチームの勝利が最優先! 至高の“3番手”の野球観
posted2020/10/29 11:00
text by
石田雄太Yuta Ishida
photograph by
KYODO
美馬学には“3番手”がよく似合う。2017年、イーグルスで則本昂大がWBCに出場して調整が難しくなり、岸孝之がインフルエンザを発症したとき、急遽、開幕投手を務めることになったのがローテーションの3番手、美馬だった。
美馬はこのとき、6回を投げて3失点と試合を作り、チームに勝利をもたらしている。当時、イーグルスの監督を務めていた梨田昌孝が「ノリ(則本)は勝ちのつくピッチング、岸は負けないピッチング、美馬はチームを勝たせる、負けさせないピッチングができるんだよね」と話していたのが印象に残っている。
さらに遡って2013年の日本シリーズでも、シーズン24勝0敗の田中将大、ルーキーとして15勝を挙げた則本を押しのけてMVPを獲得したのは3番手の美馬だった。美馬は「調子がよければイメージしたラインにボールを乗せて両サイドに投げ分けられるし、調子が悪くても真ん中に投げればいろんなところに散ってくれる」と言って、笑っていた。
「何点取られてもチームが勝つ」ことをよしとして
とくに身体が大きかったわけでもない美馬の野球人生は挫折の繰り返しだ。ケガが多く、野手の経験もあり、常に周りを見渡しながら野球をやってきた。バッターを圧倒するのではなく、打たれる想定をしながらいかに野手に守ってもらうかという美馬の野球観を、彼の体格と環境が育んだ。唯一、心に刻んでいるのがツーアウト満塁、フルカウントから絶対にストライクになる一球を投げられること――その意識と技術の高さが、ここまでの美馬を支えてきた。
今年、FAでマリーンズへ移った美馬は、またもローテーションの3番手としてスタートを切った。開幕投手が内定していながらコロナ禍で開幕が遅れ、3試合目のホークス戦に先発。5回を1失点にまとめて移籍後初勝利を挙げると、以降、ホークス戦で4連勝。10月11日の直接対決では初めての負けを喫してしまったが、7回を3失点で凌ぐ粘りのピッチングでゲームメイクした。
しかし美馬は満たされない。彼はバッターを圧倒するのではなく、チームを勝たせたいピッチャーだからだ。「7回3失点、ナイスピッチング」ではなく、「何点取られてもチームが勝つ」ことをよしとする――3番手だった美馬は、今年もいつしかチームの勝ち頭になっている。