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元“公務員ランナー”川内優輝33歳「今年はレースがなさすぎて…」あの国家資格試験に合格していた
text by
雨宮圭吾Keigo Amemiya
photograph byKiichi Matsumoto
posted2020/10/30 17:05
昨年からプロランナーとなった川内優輝。コロナでの緊急事態宣言中、自身のTwitterで積極的にランニング情報を発信した
一緒に取材した川内をよく知るS記者は「やっぱりどこまでも予定調和を許さない男や」とやっぱりうれしそうにしていた。練習中であれば声をかけるのははばかられるが、仕方なしにおそるおそる声をかける。
「あの~、そろそろ撮影は十分なんですが……」
あ、そうですか。といった感じでケロッと川内は足を止め、時計を止めた。だいたい10kmほど走っただろうか。
結局、撮影が終わったから走るのを止めたのか、練習が終わったから走るのをやめたのか、我々には最後までわからなかった。
「うわっ!」細密な文字文字文字文字文字文字文字文字文字……
「予定調和を許さない男」の片鱗を見たあとで、次はコロナ禍での走り方の変化がわかるようにと持参してもらった練習日誌を見せてもらった。練習日誌は昔からつけ続けているということなので、何冊か持ってきてくださいとお願いしておいたのだ。
川内がバッグから取り出したのは青いノート。持ってきてくれたのは1冊だけだった。
失礼な話だが、この時「ああ、何冊かあったほうがよかったのになあ」と思ってしまった自分がいた。だって、何冊も山積みになっていたら、それだけで写真も説得力があるじゃないですか。
しかし、である。川内はここでもやはり予定不調和な男だった。
ページを開く。「うわっ!」と声が出た。
そこには白いページが黒く塗りつぶされたような驚くほど細密な文字文字文字文字文字文字文字文字文字文字文字文字文字文字文字文字文字文字文字文字文字文字文字文字文字文字文字文字文字文字文字文字文字文字文字文字文字文字文字文字(ぜひ誌面の写真をご覧ください!)。
レースに出まくるだけが川内メソッドではない
B5サイズの日記型ノートにこれでもかというぐらいびっしりと、その日の練習内容が書き込んであったのだ。何十冊あるよりも、たった1冊で圧倒的な説得力と熱量。一緒に取材した川内をよく知るS記者も……(以下略)。
川内が練習日誌をつけ始めたのは小学4年生のとき、母親に勧められたのがきっかけだったという。いまは廃刊となったランニング雑誌『シティランナー』の付録で始め、現在は『ランナーズ』のもので続けている。
「普段はメニューだけですが、ポイント練習の日には感想も書きます。あとはイライラしていると何か書いたりしますね(笑)」
レースに出まくることだけが川内メソッドではない。その裏には、日々の練習をしっかりと記録、分析し、反省する繰り返しの作業があったのである。