All in the Next ChapterBACK NUMBER
「中村君は新幹線、僕は山手線かな」三宅諒の“年齢なりのピーキング”と18歳中村輪夢を羨む理由
text by
田中大貴Daiki Tanaka
photograph byWataru Sato
posted2020/10/11 06:00
この日、初対面だったという三宅と中村。年齢も競技も違うが、それぞれの考え方に刺激を受けたようだ
三宅「東京は“初めてのオリンピック”」
――中村選手は、経験豊富な三宅選手に聞いてみたいことはありますか?
中村 僕たち(自転車BMXフリースタイルパーク)にとってオリンピックは誰も経験したことがない舞台。W杯や世界選手権でも選手が感じるものは違うので、オリンピックはどう違うのか聞いてみたいです。
三宅 W杯や世界選手権と違う点を挙げるとすれば、たとえば観客はBMXに詳しい人たちだけが観ているわけではない。“何だ、この競技?”という人たちもたくさんいます。観客もオリンピックを通してその競技を知り、応援してくれるから、本当に「お祭り」。特別なんです。それにオリンピックはW杯や世界選手権とはまた違ったスキームで動いていますからね。
――スキームというのは?
三宅 僕もずっとコンスタントに結果を出している選手ではないのですが、オリンピックシーズンになると「フェンシングには三宅ってやつがいるぞ」となる(笑)。競技年齢が若い新体操などでも、生まれるタイミングが少し違うだけでオリンピックのサイクルに合わないことがありますよね。4年に1回というサイクルに合わせられるか、生まれた境遇が絡んできます。だから中村君が18歳(来夏の時点では19歳)というイケイケな状態でオリンピックを目指せることは、とても羨ましいことですよ。
――「スキーム」という要素を見たとき、東京でオリンピックが行われることは、これまでのオリンピックとまた違ったスキームになるのではないでしょうか。
三宅 まさに、そうです。言ってみたら、僕も“初めてのオリンピック”を目指しているようなもの。東京でやるならば、と競技を続ける選手も多い。不安定なアスリート人生において4年間もそこに費やすということは、それ相応以上の魅力があるということです。
中村 BMXの選手たちにとって「Xゲーム」という世界最高峰の大会で一番を獲ることが最大の名誉と言われていますが、オリンピックで金メダルを獲りたい気持ちは強いですし、何より一番興奮しているのは日本で開催されるということです。BMXという競技を知らない人も多いので、そこで日本人が活躍すればたくさんの人に知ってもらえる。そこは意義があるなと感じています。
オリンピックにいる「魔物」とは?
――10代で初めてのオリンピックを自国で迎えることは幸せですよね。
三宅 もちろん。あと、オリンピックには「魔物」がいるとよく言われますが、おそらく自国開催なりの「魔物」が住んでいるはず。僕はロンドン大会に出場しましたが、何大会か出ている他競技の方に話を聞くと、やはり国ごとに大会の特性が全く異なるみたいなんです。その意味で自国開催のアドバンテージは大きいですが、その分「魔物」も大きくなると思います。
――「魔物」のイメージはわきますか?
中村 どうでしょう(笑)。「魔物」が「緊張」だとすれば、僕の場合は緊張すればするほど調子が良くなるタイプ。プレッシャーがあった方がいい走りができると思っています。いつもスタート前に緊張して、大丈夫か?となることもありますが、いざ始まってしまえば逆に「調子がいい」に変わり、良い演技ができる。「お、緊張してきたな」と感じることは嫌ではないですね。
三宅 おっしゃる通りで、アスリートにとって、そもそも緊張できること自体が「ありがとう」なんですよね。緊張は自分がそれだけ懸けてきたということの裏返し。我々はある意味、特異な感性の持ち主で、本来は背負いたくないと思う部分を是非とも背負わせてくださいと思うものですから。
――三宅選手が18歳の時、緊張がいいパフォーマンスに繋がると感じていましたか。
三宅 少なくとも、当時はまだ言葉にできなかったと思います。いま(中村君は)しっかりと言葉にしてくれていますが、それでも心の奥底には「そんなこと考えてプレーしていない」という気持ちがあるはず。何度も何度も質問されることで言葉にできるようになるものですが、それができるようになると自分の言葉に縛られてきたりするんですよ。コンスタントに結果を出すために、教科書やマニュアルを作るような感覚です。
僕が言った「魔物」は決して緊張のことだけを言っているわけではなく、むしろ期待に応えようとしすぎる気持ちだと思っています。自分の作ったマニュアルに囚われず、「ただ毎日練習して、良いパフォーマンスをすればいい」「新しいことをしてみんなを驚かせたい」という純粋な気持ちを大切にしてほしいなと思いますね。