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藤井くんや羽生さんの“将棋の時間感覚”とは? 持ち時間で思考法もテンションも変わる
text by
茂野聡士Satoshi Shigeno
photograph bySatoshi Shigeno
posted2020/09/30 15:00
TVトーナメントの決勝で対局する藤井聡太七段(右)と佐々木勇気六段
対局時間の長短で思考が変化。
同じ将棋でも、時間が変わるだけで対局の感覚はまったく別物になる。その変化について、野月八段は次のように説明してくれた。
「持ち時間が短い対局では、現状の局面にスーパーハイテンションで臨む、という表現が適切かと思います。対局の最中に過去の手を振り返ったり、今の局面と違うことを考えたりしていると集中力が落ちてしまうんですね。
逆に順位戦など持ち時間の長い対局では、前の局面を振り返る時間を作ることもあります。そこで『方向性がずれているから修正していこう』と考え直したり、ミスした際に落ち着いて盤面を冷静に眺めてみる。すると悩んでいた手が大したミスではなかったと気づくこともあります」
これについては羽生竜王も「2日制になると少し時間があるので、落ち着いて考えていきます」と話していて、棋士にとっては共通する感覚なのだろう。一方、持ち時間の短い対局にはこんな特徴がある。
「素早く決断できる若手棋士が活躍する傾向にありますね。数多くの手を読みきる計算力もありますし、自分の直観を信じて、恐れずにいける思い切りがある。スポーツにたとえるなら……サッカーの若手アタッカーがボールを持つと、強引に仕掛けてシュートに持ち込んでくる感じですかね(笑)。それくらい思い切り踏み込んでくるイメージです」
30秒間で取捨選択する必要性が。
言われてみれば、藤井七段が優勝した朝日杯オープンは持ち時間40分の早指し戦だった。また前述のフィッシャールールでの準決勝では、24歳の佐々木勇気六段が羽生竜王に勝って決勝進出。そして9日に激突する相手は、藤井七段だ。
若手優位とも言えるルールの中で、経験値で上回る棋士はどんな思考で若手に対抗しているのだろうか。再び野月八段の言葉だ。
「時間がないと読みが全部まとまらないこともあり、取捨選択も重要になってきますね。隅から隅まで考えたいんですが、30秒の秒読みだとそうはいきません。なので読むべき部分を整理整頓するんです。
頭の中で何が起こっているかと言うと……15秒まで考えられるだけの手を考えて、20秒から25秒の時点である程度読めたら、そこで決断しきってしまう。もし読みきれなかったら無難と言うか、踏み込まない手を指してリスクを負わないようにします。もちろん指針は棋士によってそれぞれ違いますけどね」