ゴルフPRESSBACK NUMBER
「オレはなんてバカなんだ」50歳ミケルソン、悲願の全米オープン初制覇に向け因縁の地へ
text by
舩越園子Sonoko Funakoshi
photograph byGetty Images
posted2020/09/16 11:30
悲願の全米オープン制覇を狙うミケルソン。場所は14年前、苦汁を嘗めたウイングドフットGCだ。
勝てば初制覇、生涯グランドスラムも
愛妻エイミーの乳がんとの闘病を傍らで支えた翌年の2010年にマスターズを制し、2013年には全英オープンでも勝利を挙げてメジャー大会の勝ち方を身をもって知った。
筋力や飛距離が衰えた事実と反比例して、経験に基づく判断力が高まり、肝心の場面で溢れ出す感情をコントロールする術も身に付けた。
2017年に名匠ギル・ハンスによって改修されたウイングドフットは、今年、全長7477ヤード(パー70)に設定され、14年前より200ヤード以上も距離が長くなっている。
もしも今年、ミケルソンが優勝すれば、それは彼にとって全米オープン初制覇、そしてメジャー6勝目となり、それは同時にメジャー4大会すべてを制すキャリア・グランドスラム(生涯グランドスラム)の達成となる。
ラスベガスのブックメーカーが算出したミケルソン優勝のオッズは75倍。その可能性は決して高くはないが、ゼロではない。
勝敗を分けるのは「パーを求める心」
勝ちたい。勝ってほしい。本人も周囲も切に願うミケルソンの勝利。だが、今、彼に求められるものは、今さら飛距離を伸ばすことではもちろんなく、もはや何度もコースを訪れて事前チェックや事前練習を繰り返すことでもない。大切なのは14年前と同じ轍を踏まないことだ。
あの'06年大会の72ホール目で、もしもミケルソンが71ホール目までと同じようにショットの乱れをショートゲームで補ってパーを拾うことを目指していれば、おそらく彼は勝っていた。
だが、勝利を求めるあまり、最後の最後に「補ってパーを拾う」ことより「無茶でも攻める」ことを選んでしまった。その結果、彼は自滅した。
「オレはなんてバカなんだ」
そう言って頭を抱えたあの失敗を繰り返さないためには、求めすぎない我慢のゴルフが何より求められる。
2006年大会のオギルビーの勝利は、ミケルソンの自滅によって押し上げられた優勝だとも言われたが、単なる「棚ぼた」ではない。あのウイングドフットの4日間で、ただの一度もダブルボギーを叩かず、最終日の最難関の上がり3ホールをすべてパーで切り抜けたのは、上位陣ではただ1人、オギルビーだけだった。
それは、無欲の勝利であり、「パーの勝利」だった。詰まるところ、全米オープンはイーブンパーとの戦いである。たとえウイングドフットが多少長くなろうとも、ラフが一層深くなろうとも、時代や選手たちの顔ぶれがどう変わろうとも、勝敗を左右する究極は「パーを求める心」の有無だ。