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エアグルーヴは強い牝馬の元祖だ。
牡馬に勝てるを証明した札幌記念。
posted2020/08/21 17:30
text by
平松さとしSatoshi Hiramatsu
photograph by
Kyodo News
1997年に天皇賞(秋)(GI)を勝ったのはエアグルーヴ(牝、栗東・伊藤雄二厩舎)だった。
今でこそ強い牝馬が牡馬を相手にGIを勝つ事も珍しくないが、当時のデータ的には牡馬の方が圧倒的に強かった。天皇賞を牝馬が制したのは'80年のプリティキャスト以来。エアグルーヴの手綱を取った武豊騎手をしても、レース前には「自信はあるけど、正直、牡馬にまざってのGIとなると目に見えない壁があるのかも……」と半信半疑の気持ちでいた。
エアグルーヴの父はトニービン、母のダイナカールは'83年のオークス馬。エアグルーヴは'96年のオークスで母娘制覇を成し遂げていた。
エアグルーヴの勝ちを信じる理由。
'97年、古馬となったエアグルーヴは冒頭で記した通り天皇賞(秋)を制する。ゴール前での叩き合いの末、クビ差での戴冠。3着馬は更に5馬身も離れてのゴールとなった。つまり最後はマッチレースだったわけだが、この競り合った相手は岡部幸雄騎手(当時)の乗るバブルガムフェローだった。天皇賞(秋)のディフェンディングチャンピオンで、単勝1.5倍の圧倒的1番人気の支持を得ていた。
これを相手に単勝4.0倍の2番人気だったのがエアグルーヴだ。牝馬が当たり前のように大活躍をする現在ならこの差はもっと詰まっただろう。しかし、対抗の評価の中、自信を持っている男がいた。エアグルーヴを管理する伊藤雄二調教師(当時)だ。
「とにかく状態が抜群に良かったし、好勝負出来るというか、ほぼ行ける(勝てる)んじゃないかという自信はありました」
当てずっぽうや身贔屓でなく、単なる勘でもなく、そう思える理由が伊藤調教師にはあった。桜花賞とオークスを制した(いずれも'87年)名牝マックスビューティやダービー馬ウイニングチケット('93年)らを育てた伯楽は、この年の夏、エアグルーヴを札幌記念(GII、札幌競馬場、芝2000メートル)に挑戦させていた。