eスポーツは黒船となるかBACK NUMBER
F1の凄腕カメラマンがeスポーツに。
「現実では絶対に撮れないものを」
text by
八木葱Negi Yagi
photograph byGran Turismo_Clive Rose
posted2020/07/22 20:00
クライブ・ローズ氏が『グランツーリスモ SPORT』を撮影した1枚。バーチャルでこそ写せるアングルだ。
「車ってこんな風にも見えるんだ」
今でも、リアルレースの撮影について「やり尽くした」感覚はないとローズ氏は話す。それでも『グランツーリスモ』の撮影の話が来た時には、迷わず引き受けたという。
「ゲームの中でカーレースを撮影するなら僕が世界で一番の適任者なんじゃないか、って思ったんだ(笑)。レースゲームは昔から興味を持ってきたけど今は映像がリアルで、コースもレーザーでスキャンしたと聞いて驚いたよ。あとは太陽の位置、光の反射の再現度が本当にすごい。僕が25年撮り続けてきたサーキットが忠実に再現されているんだ」
映像技術の進化はいちじるしく、『グランツーリスモ』の映像を現実のカーレースと区別するのはぱっと見では難しいレベルに達している。
ただ1つ気になるのが“リアルすぎる”ことで、「それならゲーム内で撮影する必要がないのでは」という風になってしまわないかということだ。
そんな疑問を伝えると、クライブ氏はニヤリと笑った。
「そう、まさにそうなんですよ。今はみんなの興味が『こんなにリアルで、現実のレースと同じ写真になるよ!』って、いかに現実っぽい写真を撮るかに向いている。
でもゲームの中では、カメラをコースの真ん中に置くことだってできるし、レース中のボディやタイヤにギリギリまで近づける。現実のレースでは絶対に不可能なことが色々できるんだから、これまでと同じ写真を撮るだけじゃ意味がない。僕は今まさにそれを探している途中で、『車ってこんな風にも見えるんだ』という新しい写真の可能性を日々発見している。逆に最近は、リアルのサーキットへ行くと撮影手段が限られていてフラストレーションを感じることもあるくらいだよ」
「よくある報道写真」以上のものを。
技術の進歩が勝負を分けるモータースポーツの世界と同じように、スポーツ写真も日々進化している。「よくある報道写真」を抑えるだけでは、ファンはあっという間にその怠惰を見抜いてしまうのだ。
「僕らのような現実のレースを撮ってきた人間には、アドバンテージもあるけれど実はハンデもある。伝統的な写真の撮り方、美学が染み付いているからね。
だから逆に、レースカメラマンにとってバーチャルでの撮影は必須のスキルになっていくだろうと思っている。バーチャルでの試行錯誤がリアルレースの撮影方法のヒントになるし、新しい“かっこよさ”が生まれてくる。だから僕はリアルとゲーム両方のサーキットで撮影していくし、それが新しい写真を発明する近道だと思うんだよね」