イチ流に触れてBACK NUMBER
イチローがピート・ローズを超えた日。
「だから僕も興味がないって言うか」
posted2020/06/14 20:00
text by
笹田幸嗣Koji Sasada
photograph by
Kyodo News
「だから僕も興味がないって言うか、それを喜んでくれていたら。『ハリー』なんかは来てくれたじゃないですか、シアトルに。『ハリーって、ハリー』ですけど。なんかかわいげがありますよね(笑)」
『ハリー???』
誰よ、ハリーって。
2016年6月15日、サンディエゴ。
この日、マーリンズのイチローはピート・ローズが持つ4256安打のメジャー歴代最多安打を抜き去った。日米通算で世界歴代最多となる4257安打を放っためでたい記者会見の席で彼の口から突然に飛び出した『ハリー』の名。場内には必死に笑いを堪えようとする記者もいたが、鳩が豆鉄砲を喰らったような表情でキョトンとしている者もいた。
『ハリー』。
それは、野球評論家の張本勲さんのことだった。
数字より、大先輩の祝福が嬉しかった。
遡ること約7年、2009年4月16日、シアトル。マリナーズのイチローは張本勲さんが持つ日本歴代最多の3085安打を抜く日米通算3086本目のヒットを右前に放った。その際、張本さんは偉業達成の瞬間をセーフィコフィールド(現Tモバイルパーク)のスタンドから見守った。自身より33歳も下の天才打者の偉業を祝福するために。
イチローには「3086」の数字より、大先輩がわざわざシアトルまで駆けつけ祝福してくれたことが嬉しかった。
「単純に、張本さんが頂から見ていた景色がどんなものなのかを感じてみたかった。今日、あのヒットで頂に登ったんですが、すごく晴れやかで、いい景色だった。素晴らしいものでした」