ワインとシエスタとフットボールとBACK NUMBER
オシムの語るいま、そして秘めた炎。
「私はフリーだ。君もわかるだろう」
posted2020/06/12 11:30
text by
田村修一Shuichi Tamura
photograph by
AFLO
イビチャ・オシムはグラーツで静かに暮しながら、コロナ禍により静止した世界がどうなっていくのかをじっと見守っている。遠い日本にも常に思いを馳せながら。地理的な距離と心の距離、このふたつはオシムの中ではまったく異なっているのだった。オシムの近況を伝える。
――元気ですか。
「ああ、元気だ。君はどうだ?」
――私はまあまあというところです。
「そうだろう。日本が悪いはずがない」
――そうは言っても今はまだ状況は厳しいですが。
「いや、酷くはないしいい状態を保っている。私は日本という国を信じている。一緒に仕事をしたときなど、日本人は信頼するに値する。それでそちらはどうなっているのか?」
――今は少し良くなっていますが……。
「試合は始まっているのか?」
――それはまだです。
「私は韓国のリーグ戦を見た。崔龍洙が監督を務めているチーム(FCソウル)が勝っていた。久しぶりに彼の顔を見た」
崔龍洙は素晴らしい選手だった。
――韓国は再開しましたから。崔龍洙のことは、あなたもよく覚えているでしょう。
「ああ、彼は素晴らしいキャリアを築いた。ジェフもそうだし、日本の他のクラブでもそうだった。とても危険な存在で、屈強で本当に素晴らしかった。その力強さで、彼は相手を恐れさせた。ゲームの支配者であり、チームのすべてを手にしていた。監督があんな風ではちょっと問題があるが、選手である限りは素晴らしい」
――彼はあなたの下で多くを学んだと言っています。
「いったい何を学んだというのか。たとえ(当時のジェフが)学校だったとしても、彼が何かを学んだようには見えなかった」
――しかし今になって分かったことがたくさんあるようです。
「分かったときはもう遅いわけだ(笑)。選手のころの彼はそうではなかった。自分が正しいと常に考えていた。選手としての自分が正しいと。いいプレーが出来ず、得点がとれないときでもそうだった。PKを外したときはいつも言い訳していたな(笑)。
ただ、チームにとってはポジティブだった。彼のように強いキャラクターの選手は必要であるからだ。現役を退いたあとで彼はいろいろ考えて慎み深くなったのだろう。ジェフにはチームを導く選手が必要だった。本物のキャプテンだ。チームだけではない。ときには監督さえも導ける人物だ。
それで日本はどうだ。代表はどうしているのか?」