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比嘉大吾が絶望の淵から帰ってくる。
減量失敗、引退危機からの生還。

posted2020/06/03 11:30

 
比嘉大吾が絶望の淵から帰ってくる。減量失敗、引退危機からの生還。<Number Web> photograph by Jun Shibuya

練習場所が公園でも、旧知のトレーナーとの二人三脚復活に比嘉大吾の表情は明るい。

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渋谷淳

渋谷淳Jun Shibuya

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 あの比嘉大吾が戻ってくる――。

 5月某日、元WBC世界フライ級チャンピオンの比嘉は横浜市内にある公園でトレーニングに励んでいた。アップダウンのあるゴルフ場のようなコースを走り、芝生の上でさまざまな種類のダッシュ、さらにはグローブとヘッドギアをつけてのマスボクシングといったメニューを次々こなしていった。

 心拍数が上がり、筋肉に乳酸がたまるのだからきついに違いないが、比嘉はときに歯を食いしばり、ときに大声を上げ、ときに笑いながら練習に取り組んでいた。その表情には久しく見られなかった充実感があふれていた。

「東京から横浜に来て、気持ちもボクシングに前向きになれました。新しい環境でリセットできたと思います。今は午前と午後の2部練習。階段をダッシュしたり、公園を走ったり。きついですけど、これが世界を目指す練習だと思うとやる気が出ます」

王座剥奪、ライセンス停止処分。

 さかのぼって2018年2月、比嘉はWBCフライ級王座の2度目の防衛戦で15連続KO勝利の日本タイ記録をマークした。ここぞとばかりに相手に襲い掛かる殺戮本能、リング内とは対照的などこかとぼけた明るいキャラクター、同じ沖縄出身のスターである具志堅用高会長とのコンビもあって、その将来は前途洋々に見えた。

 ところがこの試合から2カ月後にキャリアは暗転する。4月に行われた世界タイトルマッチで事件は起きたのだった。

 比嘉は試合前日、日本人世界王者として初めて計量に失格し、王座をはく奪された。減量は前回の試合から限界に達していたという。翌日の試合は「ロサレスが勝った場合にのみタイトル獲得」という変則ルールで試合に臨み、クリストファー・ロサレスに9回TKO負けを喫した。

 試合会場から病院に直行し、退院後は静かにボクシングから離れた。この間、比嘉に関して流れたニュースといえば、日本ボクシングコミッションが下したライセンス無期限停止処分くらいだった。

【次ページ】 引退という言葉すら口にした。

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