ボクシング拳坤一擲BACK NUMBER
比嘉大吾が絶望の淵から帰ってくる。
減量失敗、引退危機からの生還。
text by
渋谷淳Jun Shibuya
photograph byJun Shibuya
posted2020/06/03 11:30
練習場所が公園でも、旧知のトレーナーとの二人三脚復活に比嘉大吾の表情は明るい。
引退という言葉すら口にした。
ブランクの間は糸の切れた凧のような生活を送り、ようやく復帰を表明したのが2019年の秋。ただし本人の口からも、周囲からも、比嘉のボクシングに対する情熱は伝わってこなかった。
翌2020年2月13日、後楽園ホールで再起戦のリングに上がり、フィリピンの中堅選手に6回TKO勝ちを収めたものの、「1ラウンドが終わってもうきつかった。まったくダメでした。気持ちも上がらなかった」という体たらくだった。
勝利したあと、リング上で「このままモチベーションが上がらなければ引退するかもしれない」という発言も周囲をやきもきさせた。
3月にはデビュー戦から所属していた白井・具志堅スポーツジムとの契約を更新せず、「比嘉、本当に大丈夫か?」の声はますます高まっていたのである。
野木トレーナーの自宅近くへ引っ越し。
その比嘉が復帰に向けて心を入れ替えて練習に励んでいる、と耳にしたのは4月下旬のことだった。連絡を入れてみると、返ってきたのは「気持ちの切り替えは終わっています」という明るく元気な声だった。
ここにいたるまでにはさまざまな経緯があった。それについて本人は多くを語らない。大事なのは気持ちの整理がつき、今は明日に向かってボクシングに集中しているということだ。
比嘉は再起にあたり、デビューから世界王座陥落までともに歩んだ野木丈司トレーナーと再びタッグを組むと決めた。4月19日に東京から横浜に引っ越したのは、野木トレーナーの自宅近くに住み、トレーニングにより集中しようと考えたからだ。
今後、比嘉は2階級上げてバンタム級を主戦場にしようと考えている。4、5月に徹底した体づくりに励んだのはそのためでもある。フライ級で圧倒的なパワーを誇った比嘉とはいえ、バンタム級になれば話は別だ。階級アップについては、野木トレーナーが知恵を絞っている。