松岡修造のパラリンピック一直線!BACK NUMBER
パラバドミントンの新星・里見紗李奈。
東京2020で伝えたいメッセージとは?
text by
松岡修造Shuzo Matsuoka
photograph byNanae Suzuki
posted2020/06/14 11:00
里見選手がスポーツを通じて伝えたいメッセージは、松岡さんの思いと同じものでした……。
「このシンプルさが他のアスリートにも欲しい」
インタビュー終盤、ダブルスのペアの山崎悠麻選手も合流。松岡さんが質問を振る。
松岡「紗李奈さんの成長をどう見ていますか?」
山崎「やっぱり自信がついたというのは感じます。ダブルスで私が紗李奈ちゃんに引っ張ってもらう事もあるし、お互いが引っ張り合えているのがいいと思います」
松岡「紗李奈さん、世界ランキングも東京パラリンピック・ランキングも世界1位になって、みんなの期待はもう、東京パラリンピックで金メダルですよ。メディアもそういう目で見てるし。そのプレッシャーって、どうなんですか?」
里見「私も同じ気持ちだよって感じです」
松岡「(しばらく固まって)このシンプルさが他のアスリートにも欲しい。僕がインタビューしたアスリートには、金メダルへの期待があまりにも大きくてプレッシャーを感じていると言う選手ももちろんいます。ただ、取材されて『私もあなたと同じ思いですよ』みたいな人はなかなかいない。その捉え方、いいですね。新鮮」
里見「それほどプレッシャーにはなっていないし、むしろ注目されて応援していただけると、すごく力になって、自分がどんなパフォーマンスができるか楽しみになります」
松岡「どんな応援の言葉に燃えますか?」
里見「名前を呼んでもらえるのが嬉しいです。『紗李奈、チャチャチャ』とか『紗李奈、ガンバレー!』とか、本当に嬉しい」
松岡「僕はパラリンピックの魅力って、競技での強さはもちろんですけど、選手それぞれに戦っている壁があって、その選手が個々に発信するメッセージがとても強いんです。紗李奈さんはパラバドミントンで勝つこと以外、何を一番伝えたいですか?」
里見「ありきたりになっちゃうんですけど、自分みたいに事故で車いす生活になっても、自信が持てるようになったことを知ってもらって、たとえ今、沈んでいても、その人が立ち直れるきっかけになれないかなって思っています」
松岡「全然、ありきたりじゃなですよ。身体の障害だけじゃなく、引きこもっていたり、自分を上手く出せずに悩んだりする人はたくさんいると思うんです。今、つらい思いをしている人たちになんて言葉をかけてあげたいですか?」
里見「(少し恥ずかしそうに)『キミならできる!』ですかね。修造さんの真似です(笑)」
松岡「なんでそこで恥ずかしがるんだ! 僕も同じ思いですよ」
里見「今はつらいかもしれないけど、時間が経てば大丈夫だよって言ってあげたいです。私は人に恵まれたというのもありますけど、一歩踏み出して違う世界に入れば出会いが待っていて、今見ているのとは別の世界が広がるって思います。私が実際に体験したことです」
松岡「紗李奈さんは、ゆるさの中に強い芯を持った選手だと思います。今日はすごくいろいろな発見がありました。ありがとうございました」
(構成:高樹ミナ)
※本取材は緊急事態宣言が出る前に行ったものです。
里見紗李奈(さとみ・さりな)
1998年4月9日、千葉県生まれ。2016年5月、高校3年生のときに交通事故に遭い脊髄を損傷、両下肢に障がいが残る。'17年の春に父親のすすめでパラバドミントンを始める。同年8月のデビュー戦でシングルス3位、12月の日本選手権でシングルス準優勝。'18年7月のタイ国際では日本のエース山崎悠麻選手と組んだ女子ダブルスで準優勝。'19年8月の世界選手権でシングルス優勝、ダブルス3位。東京2020大会ではメダルを期待されている。クラスはWH1。NTT都市開発所属。