酒の肴に野球の記録BACK NUMBER
藤浪晋太郎の勇気と復活を信じたい。
大阪桐蔭、阪神でずっと「ええ子」。
text by

広尾晃Kou Hiroo
photograph byToshihiro Kitagawa/AFLO
posted2020/03/28 11:30

2012年夏の甲子園決勝、大阪桐蔭のエースとして君臨した藤浪晋太郎。野球ファン誰もが甲子園で再びその雄姿を待ち望んでいる。
高卒3年目までに35勝を挙げた。
阪神は1年目の藤浪を大事に扱い、当時の中西清起投手コーチがつきっきりで藤浪の面倒を見た。規定投球回数には達しなかったものの、いきなり2ケタ勝利を挙げた。
そして2年目以降、藤浪はランディ・メッセンジャーと並ぶWエースになっていった。
メッセンジャーは毎年3000球前後を投げても、全く消耗しない「現代のガソリンタンク」ともいうべき投手だった。「メッセに投げられるんやから、藤浪もいけるやろう」という認識だったかもしれないが、それは危険なのではと思っていた。
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3年目までの通算では藤浪は35勝21敗、大谷翔平は29勝9敗。二刀流の大谷との単純な比較はできないが、同世代を引っ張る2トップという感があった。
しかし2016年から藤浪の成績は急落する。制球の乱れが目立つようになった。
2016年7月8日の広島戦では乱調の藤浪に対し、この年から就任した金本知憲監督が161球を投げさせたことがあった。時代錯誤の「懲罰的投球」と言われて物議をかもしたが、この時期から藤浪は阪神のローテを維持できなくなっていくのだ。
2015年に見た藤浪の剛球と笑顔。
阪神タイガースの沖縄・宜野座村の春季キャンプでは、2年前までブルペンがオープンになっていて誰でも間近に投球練習を見ることができた。
私は2015年にブルペンにて藤浪を目の前で見たが、長い脚がゴムのように伸びて、剛球がミットに素晴らしい音を立てて収まるのを見て、胸がすく思いがした。
彼は本当に楽しそうにボールを投げていた。投内連携の練習でも、長い体を折り曲げて送球しながら、こぼれるような笑顔を見せた。
「ええ子やなあ、藤浪は」と思った。
その藤浪がここ数年、二軍でくすぶっているのは本当に残念なことだ。
日本版「ルール5ドラフト」、つまり現役ドラフトの導入がうわさされているが、もし藤浪が阪神にいることに居心地の悪さを感じているのなら、他のチームに行って活路を見出してほしいとさえも思ったほどである。
その矢先に新型コロナウイルス禍で、藤浪晋太郎が感染したとのニュースである。