ボクシング拳坤一擲BACK NUMBER
世界を7度防衛、でも威圧感はなし。
拳四朗というボクサーの真の魅力。
text by
渋谷淳Jun Shibuya
photograph byToshiya Kondo
posted2020/03/23 15:00
強そう、怖そう、という雰囲気は全くない。しかしだからこそ、拳四朗にはボクサーとしての凄みがある。
「相手の体の芯を触る」パンチ。
勝利へのシナリオは明確だ。
「相手を疲れさせるということですね。だから前半から速いテンポで攻める。そうすると相手はついてこられないか、たとえついてきても後半になれば絶対に落ちる。僕は同じペースで最後までいけますから。
だからクリンチもダメですね。あれは相手に楽させて、自分も楽してるだけです。最初にがんばって、相手を疲れさせないと。先行投資ですよ」
いくら速いテンポで攻めて試合を優位に進めたとしても、パンチが弱ければ相手は倒れず、結果は大差判定勝ちだ。ところが拳四朗の場合、あまり強いパンチを打っているように見えないのに、多くの試合で相手を仕留め切っている。
加藤トレーナーはもう1つの強みを「相手の体の芯を触るのがうまい」と説明した。
「相手の体の真ん中、体幹を打つことができる。重心とはまた違うんですけど、よけようと思ったらバランスを崩すし、よけなかったらパンチをもらう、というところです。逃げられないところと言うか。そこをとらえる感覚が抜群です。おそらく天性のものでしょう」
「他人の肩とか体のはじを手で押したら力が逃げるじゃないですか。でも真ん中を押したら後ろに押し込めますよね。そういうことです」。こちらは拳四朗の説明だ。
カメラマンが驚くボディ打ち。
体の強さと芯をとらえる感覚の融合が、独特なボディ打ちに表れている。拳四朗はボディブローでノックダウンを奪う試合が多い。
世界のスーパースターを撮影し続けてきたボクシングカメラマン、福田直樹氏はかねて拳四朗のボクシングに注目していた。中でもボディ打ちには驚かされたという。
「普通、ボディを打つときって体が沈んだり、膝を曲げたりするものですが、拳四朗選手の場合は、顔面に打つパンチとほとんど同じフォームでスッとボディを打つんです。相手はまさかボディにパンチがくるとは思ってない。だから効くんだと思いますね」
軸がしっかりしていてバランスがいいからこそ、無理のない自然体でパンチを打つことができる。それが速いテンポで、逃げ場のない"真ん中"にくるのだからたまらない。だから相手はもんどり打って倒れるのだ。
「たぶんブレてへんから力が逃げないんだと思います。パッと見、強そうに見えるパンチって意外と力がどっかに逃げてるんじゃないですかね」(拳四朗)