マスクの窓から野球を見ればBACK NUMBER
野球名門の中学生が大人になった日。
小さな子に野球を教える経験の意味。
text by
安倍昌彦Masahiko Abe
photograph byHideki Sugiyama
posted2020/03/01 08:00
甲子園を目指すのも素晴らしいが、「野球は楽しい」と思う子供たちの増加こそが日本の野球界を豊かにするのだ。
「教えすぎ」になっているのでは。
すげえな、おめえー!
中学球児たちの称賛の声が飛ぶ。この催しの第一の「ルール」は、教えない、怒らない、否定しない……飛び交うのは、称賛と祝福の言葉だけだ。
おー、上手くなったなー!
できるようになったじゃん!
オレより上だよーこいつ!
「指導をしないで、ただ見守ることの大切さっていうのを感じてしまいますねぇ」
桐蔭学園中学で2度「全国中学軟式」を制した大川和正監督がしみじみ言う。
もしかしたら自分たちは、いつの間にか「教え過ぎ」になっているのではないか……。
自他ともに認める理論家の大川監督のつぶやきだけに、ゾクッとくる。
中学生たちのコミュニケーションがすごい。
「タグラグビー」という種目は、ラグビーボールを回しながらトライを狙う擬似ラグビーで、タックルは危ないから、代わりにボールを持っている子の腰にぶら下げた長めのリボン(タグ)を奪うと守備が成功となる。
これにも、中学球児がからんで、ボールを持って走る子どもたちの足元に滑り込んでタグを奪おうとするのだが、取ろうとすれば簡単に奪えるはずなのに、これが実に巧妙に、ギリギリ取れなかったというタイミングで滑り込んで、子どもたちにギリギリの“スリル”を味わわせながら、種目を上手に盛り上げている。
さすが! と思った。
彼らは、実に上手に、子どもたちとコミュニケーションをとっている。しかも、彼らがすごいのは、「無言」で10歳も下の子どもたちとコミュニケーションをとっていることだ。
すごいな、キミたち!
その中学球児たちに称賛の言葉をぶつけたくなった。