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高原直泰・独占インタビュー(後編)
「日本サッカーの底辺から見えるもの」
text by
涌井健策(Number編集部)Kensaku Wakui
photograph byNanae Suzuki
posted2020/02/10 07:05
黄金世代の中心メンバーである高原直泰も40歳になった。しかし、だからこそできることがあると本人は確信している。
再就職先であり、最初の所属クラブにもなる。
そしてJリーガーの地域リーグへの進出は、若手へのお手本となるだけでなく、サッカー選手としての選択の可能性が広がったことをも示しているという。
「地域リーグにしっかりとしたクラブが増えることで、若い選手の選択肢も増えたと思います。Jのクラブでやっていた選手がすぐに引退せずにプレーを続けることもそうなんですけど、高校生や大学生で、いきなりJ1やJ2には引っかからないような選手の進路になるようになっています。
若い時は少しでも高いレベルでプレーしたいという気持ちが強いんだけど、まったく試合に出られないんじゃ意味がない。試合に出ながらでしか成長できない部分もあるんですよ。だから所属先の選択肢が増えるのは絶対にいいことなんです。
例えば、沖縄SVでプレーをすることでスキルを磨いて、個人的にJ1のクラブに引き抜かれるということも今後は出てくる可能性があります。実際に、このシーズンオフにいわきFCから横浜FCに“個人昇格”した熊川(翔)選手のようなケースもありましたからね」
最高峰と裾野の両方を知るからこそ。
例えば、イングランドではプレミアリーグを頂点に、その下にある無数のクラブがピラミッド型にレベルの高さを支えていると指摘される。そしてそのサッカー界としての「底」の広さが多様な選手を輩出する一助となっている。
これはよく知られたエピソードだが、2015-16シーズンに「ミラクル」と言われたレスターシティのプレミア制覇に貢献したFWのジェイミー・バーディーは、プレミアのクラブのユース組織ではなく、2011年には実質8部に所属する社会人チームに所属していた。それがわずか5年足らずでプレミア有数のトライカーになり、イングランド代表入りも果たしている。
「そういった個人昇格がもう少し増えてくると、日本のサッカーも変わってくるかもしれない。ぼくがプレーしていたドイツでも、結構そういうケースがあったので。そのためには僕らのような地域リーグのクラブがうまく機能していないといけないんです。
繰り返しになりますけど、そういう選手を輩出する可能性のあるクラブが、地域リーグに増えてますよ。Jに昇格したからクラブの体裁を整えるんじゃなくて、昇格を目指しながら、設立当初からやるべきことを進める――そんなチームがけっこうあります」
日本代表の試合、東京オリンピック、J1の優勝争い、そしてアジアチャンピオンズリーグ。日本サッカーの「最前線」は確かにそのピッチ上にあるのかもしれない。だが、最前線からは見えない景色もあるのだ。
「これはぼくが沖縄で一番下のカテゴリーからスタートさせてもらっているから、見えてきた動きだと思います。ずっとJ1にいたり、メディアの仕事をしているだけだと見えない部分。それをど真ん中で体験しているからこそ、サッカーをやっている小さい子に言ってるんです。これから日本サッカー、面白いよって」
黄金期のジュビロ磐田で、代表のユニフォームを着て挑んだシドニー五輪やドイツワールドカップで、そしてボカ・ジュニオルスやハンブルガーSVで、ストライカーとして最前線にたち続けた高原直泰。
最高峰のピッチで結果を出し続けてきた男が、いま沖縄の地で、日本サッカーの裾野を広げている。