草茂みベースボールの道白しBACK NUMBER
「10.8」長嶋茂雄に敗れた高木守道。
7年後の秋につぶやいた、後悔の瞬間。
text by
小西斗真Toma Konishi
photograph byKyodo News
posted2020/01/29 18:00
2代目「ミスタードラゴンズ」とも呼ばれた高木氏。2012年シーズンには17年ぶりに中日監督に復帰し、チームをCSへと導いた。
「三本柱」を鼓舞し、起用した。
この決断が功を奏した。斎藤は後続を断ち、流れを呼び込んだ。ただし、本人は「行きたくはなかった」と振り返っている。実際、ブルペンでの投球練習中、ベンチのコーチからの打診を一度は聞こえないふりをしてやりすごしている。それは重圧だけではなく、フィジカル面でも自信がなかったからだろう。槙原が救援で打たれた日に、先発して6回を投げたのが斎藤だったからだ。
覚悟を決めた斎藤が6回までを1失点で抑え、7回からは桑田真澄が登板した。前夜に長嶋監督から「しびれる場面でいくから」と告げられていたとはいえ、桑田もまた「自分まで回ってくることはまずないだろう」と読んでいた。こちらも前の登板から中2日。8回を投げており、自分の仕事は終わったという心境だった。
しかし、長嶋監督は信頼できる「三本柱」を鼓舞し、起用し、勝ちきった。この試合では3人以外にも4人の投手がベンチ入りしていたが、おそらく大差がつかない限りは投げさせるつもりはなかっただろう。
投げたのは今中慎二だけだった。
一方、中日は今中が万全のコンディションだったがゆえに、代え時を誤った。2回に失った2点は、直後に槙原をとらえて追いついたものの、3回に1点勝ち越され、4回にさらに2点を追加された。
対照的だったのは、継投のタイミングとともに人選だ。3点を追う5回に、2番手で送ったのは山田喜久夫。先頭の松井秀喜を封じるための左投手という意味合いはあるのだろうが、本塁打を打たれすぐに降板。失った流れを取り戻すことはなく、3-6で敗れた。
批判論者の根拠は、巨人のように「三本柱」が当時の中日にもいたことだ。まずはこのシーズン19勝で最多勝に輝いた山本昌で、もう1人が2.45で最優秀防御率のタイトルを獲得した郭源治。すばらしい成績を残した3人を擁しながら、決戦のマウンドに上がったのは今中だけだった。
山本昌は、斎藤や槙原が投げたのと同じ6日(2日前)に投げていた。悔やまれるのは、10-2という大差だったにもかかわらず、完投させてしまったことだ。
そして郭については、高木監督は後年、防御率争いの計算をしていたことを明かしている。結果として2位が桑田(2.52)、3位が斎藤(2.53)、4位が槙原(2.82)と巨人の三本柱を振り切ったのだが、1回を投げて2点失っていれば桑田に逆転されていた。2日前に完投した山本昌とタイトルを失うリスクがある郭。つまり、高木監督に自軍の三本柱を総動員するゲームプランは、最初からなかったのだ。