酒の肴に野球の記録BACK NUMBER
イチローの「惜しい記録」って何だ。
データで総ざらい、2019年の野球。
text by
広尾晃Kou Hiroo
photograph byNaoya Sanuki
posted2019/12/31 11:30
イチローの現役最後の試合が今年のことだとは思えない。それくらい2019年もまた、野球が日本中を沸かせた1年だった。
打てる森、走れる梅野……捕手新時代。
【「打てる捕手」が目立ったシーズン】
今季は「捕手の打撃」が目立った年だった。どうしても「専守防衛」のイメージが強いポジションだが、それだけに「打てる捕手」がいると打線の「穴」が埋まり、チームは強くなる。
西武の森友哉が捕手を務めながら打率.329で首位打者に。これは野村克也(南海、1965年)、古田敦也(ヤクルト、1991年)、阿部慎之助(巨人、2012年)に続く史上4人目。パ・リーグ捕手では野村以来、54年ぶりの快挙だ。
打撃の良い捕手は、アマチュアにはたくさんいる。しかしプロ入りすると「守備に難がある」あるいは「打撃に専念させる」ために他のポジションに転向する選手が多い。
当代でもプレミア12にて選球眼で注目された近藤健介(日本ハム)、10代の本塁打記録を破った村上宗隆(ヤクルト)、安打製造機の銀次(楽天)などが「元捕手組」だ。森もプロ入り後はDHや外野に転向した時期もあった。ただ辻発彦監督になってから捕手に戻り、今季は128試合でマスクを被り投手をリードするとともに、打者としてもタイトルを獲得した。
阪神の梅野隆太郎は4月9日、甲子園でのDeNA戦でサイクル安打を達成した。捕手としては門前真佐人(大洋/1950年6月27日、中日戦)、田村藤夫(日本ハム/1989年10月1日、ダイエー戦)、細川亨(西武 2004年4月4日、日本ハム戦)に次ぐ史上4人目。捕手は一般に鈍足とされ、三塁打がほとんど出ない。このために捕手のサイクル安打はレアだとされる。
梅野は今季、3本も三塁打を打っている。さらに14盗塁。捕手で2ケタ盗塁は2009年の阪神の先輩、狩野恵輔の10盗塁以来である。
球史を紐解けば「俊足の捕手」は結構いた。鈍足の代名詞(失礼)のような野村克也でも2桁盗塁を3回も記録している。
「捕手だから打たなくてもいい、走らなくてもいい」はあまりにも偏狭な了見だ。野球を意外性に満ちた面白いものにするためにも、捕手は打撃も走塁も頑張ってほしい。
引退・上原は40代でも制球力抜群。
【40歳を過ぎてもすごかった上原浩治】
投手では、上原浩治の引退が記録史上でも大きな話題だった。
上原は、おそらくNPB史上最もコントロールが良い投手だった。NPBで9イニングあたりの与四球数(BB/9)が1.20で史上1位だったことはすでに紹介したが、上原は「老いてなお盛ん」な投手だった。40歳以降のMLBでの投手成績は、以下の通り。
142試合7勝11敗34セーブ32ホールド
130.1回、防御率3.25 160奪三振32与四球
BB9=2.21、K/9(9回あたりの奪三振数)=11.05
すでに上原はこの時期、速球でも140km出るか出ないか。最速171kmの速球王ヤンキースのアロルディス・チャプマンのスライダーや、チェンジアップより遅かった。
しかし上原は、イニング数を大きく上回る三振を奪った。投げるたびにコースが微妙に変わるスプリッターに錚々たるMLB打者は手を焼いた。
実質的な最終年となった2018年、上原は巨人で34.2回を投げて24奪三振、さすがに三振数は衰えたが与四球はわずか5。「めったに歩かせない」抜群の制球力は最後まで衰えなかった。