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石川遼「もう“アラサー”ですよ」
今も消えない感謝と成長への意欲。
text by
桂川洋一Yoichi Katsuragawa
photograph byKyodo News
posted2019/12/10 19:00
日本シリーズJTカップでプレーオフの末、今季3勝目を上げた石川遼。ツアー史上最年少で生涯獲得賞金10億円を突破した。
「怖い」をたくさん経験してきた。
一度はPGAツアーに身を置き、「世界」というフレーズが今も頭から消えないからこそ、石川が現状に胸を張ることはない。だが、ここ数年での周囲の変化は自分の歩みを実感させてくれるものでもある。
「ゴルフはやっぱり経験のスポーツ。若い選手の『怖さがない』というのは間違いなく“強さ”だと思う。自分はその時期が終わって、『怖い』をたくさん経験してきた。でも今は、それを乗り越えようとしていることが、ひとつ成長かなと思う」
17勝を積み重ねてきた一方で、国内外でその20倍以上の試合で負けてきた。タイトルが遠くなりすぎて、自暴自棄になった瞬間も一度や二度ではない。そのたびに気持ちを整えて、ティショットを放ってきたことには自負がある。
「日本の若手も、これから乗り越えていかなきゃいけないことがある。そんなとき……自分の姿を見て『石川先輩もそういう時期があったよな』って考えてくれるかもしれない」
今でも消えない感謝の心。
「僕は自分のためにゴルフをやっている感覚がある」と石川は正直に言う。
「周りの方には申し訳ないんですけど、自分が好きで、うまくなりたいと思っていることをやって、喜んでくれる人がいるのが信じられないというか……、イイのかなという感じ」
競技ゴルフの世界に本格的に飛び込んだのは6歳のとき。気持ちは当時とさほど変わらない。それがいつしか、多くの視線を浴びる側になった。だが彼はその“外界”との接触を拒むことなく、むしろ自分の夢をサポートしてくれる人々に感謝してきた。
最終戦で漏れ伝わってきたエピソード。
男子ツアーには、選手が各会場でウォーミングアップやクールダウンを行えるよう、全国を巡るマッサージやトレーニング器具を備えた大型車両がある。石川は試合期間中のある日、ひとりこのバンに足を運び、スタッフに「今年もありがとうございました。みなさんでどうぞ」と菓子折りを届けに来たそうだ。スーパースター然とせず、媚を売るわけでもない、小さな心づかいを陰で喜ぶ人たちがいた。