とにかく子供のようなバスケ好き。

　幸嶋に言わせると、小酒部はとにかく子供のようにバスケが好きな選手なのだという。日ごとに与えられる課題を毎晩遅くまで自主練習で復習し、練習中もスキを見つければシュートを打ち、ボールに触っている。たまのオフも、高校時代の仲間たちと母校や恩師の赴任先に出向き、バスケをしていることが多いそうだ。

　本人も、子供の頃からバスケが大好きだったと振り返る。マンガも読まなければゲームもせず、自宅前に備え付けられたリングで朝から晩までプレーに打ち込んだ。

　小酒部を知る人々に取材を重ねる中で、驚いた話がある。彼の地元でクラブチームを指導する人物によると、小学生時代の小酒部は、宙に投げたティッシュペーパーをディフェンスに見立ててかわす練習をしていたというのだ。本人に確認すると、吹き出しながら事実だと認めた。

「あとは、うまい人のプレーを真似したり、その人とマッチアップをイメージしながら1人でプレーしていましたね。地区大会の決勝とか見に行くじゃないですか。そこに自分が立ってることをイメージして、その人の特徴をとらえながら……例えばその人が左利きなら自分もシュートを左で打ってみたり。そういうことをずっとやっていたと思います」

　そして、これらは誰かに教わったわけでなく、自分で思いついてやっていたと説明した。

のどかな街生まれの小酒部の飛躍。

　小酒部が生まれ育った山北町は、神奈川の最西端に位置するのどかな街だ。バスケどころというわけでも、近隣に全国レベルの強豪チームがあるわけでもない。前述の通り県選抜などとは無縁で、高いレベルの知識や技術を学ぶのが困難な環境だった。にも関わらず、彼は大学入学後の3年間で驚くほど伸びた。

　バスケが大好きなこと。そして、大好きなバスケのことを自分でよく考えてきたこと。それが小酒部の根幹にある力の源なのだろう。

「大学に来て、ものすごく伸びたっていう感覚は自分の中ではあんまりないんです」

　そう言った小酒部は、少し考え込んで、続けた。

「いつも、全力を尽くして、本気でやっている。それだけです」

【次ページ】　「あいつ、うちの練習じゃもう……」