テニスPRESSBACK NUMBER
フェデラーが絡まない片手打ち決戦。
チチパス対ティームの新鮮な興奮。
text by
山口奈緒美Naomi Yamaguchi
photograph byGetty Images
posted2019/11/21 19:00
ATPファイナルズを制したチチパス。片手打ちバックハンドのフォロースルーが非常に美しい。
フェデラーではない同士の決勝。
これだけでも今回の決勝カードが十分に稀有だったことがわかるが、同時に新時代を象徴するカードともいえた。なぜなら、それがフェデラーではない片手打ち同士の決勝だったからだ。
この16年、つまりフェデラーが初めてナンバーワンになってからの年月とほぼときを重ねて、少なくともグランドスラムとマスターズで実現した片手打ち同士の決勝は8回あったが、先に挙げた3試合と同様に全てフェデラーと誰かの対戦だった。
フェデラーではない誰か、それも26歳と21歳という若手によるパワフルで華麗な片手打ちを散りばめた白熱のラリーは、約2万人を収容するO2アリーナを埋め尽くしたファンを新鮮な興奮へいざなった。6(6)-7、 6-2、7-6(4)の激戦を制したのはチチパスだった。
ロジャーに憧れた「ベイビー」。
フェデラーがウィンブルドンで5連覇を達成した年に、当時9歳だったチチパスは完全に片手打ちへ移行したという。「大事な試合の前は必ずロジャーの試合をユーチューブで見てから寝る」というほどフェデラーに憧れてきた。ジュニアの世界ナンバーワンに駆け上がった頃から、次なる<ベイビー・フェデラー>の登場と目されていた。
フェデラーもチチパスをジュニア時代から目に止め、気にかけていた。「パワーとテクニックをうまく使い分けているよね。前よりネットに出るようになったし。それは皆、片手打ちの選手にとって成功のカギなんだ」と評したのは、チチパスが初めてグランドスラムの4回戦に進出した昨年のウィンブルドンでのことだ。
チチパスは今大会、そのフェデラーとの今年4度目の対戦となる準決勝を6-3、6-4のストレートで勝利。大きな弾みをつけ、21歳以下による『ネクストジェン・ファイナルズ』で優勝してからわずか1年で、初出場のATPファイナルズの頂点に立った。
2年連続の<ネクストジェン世代>によるチャンピオン誕生でもあった。
昨年はやはり21歳だったアレクサンダー・ズベレフが栄冠に輝いた。ネクストジェン・ファイナルズやネクストジェン・ランキングを新設して次世代選手への関心を高め、彼らの競争力を高める育成プロジェクトに取り組んできたATPの試みは、たった2年で大きな成果を見せている。