大学野球PRESSBACK NUMBER
ドラフト指名漏れと2年後の希望。
番記者が見た早稲田大4番の素顔。
text by
望月優樹Yuki Mochizuki
photograph byKanaha Une
posted2019/11/26 11:30
大学生活最後の試合となった早慶戦では2安打を放ち、勝利に貢献。社会人に進む加藤は、2年後のドラフトへ新たなスタートを切った。
「子どもの頃は泣き虫で……」
私にとって加藤は「ヒーロー」だった。周囲の人々にも常に笑顔で対応し、試合後は記者にも「お疲れ!」と気さくに声をかけてくれる。ただ、少しだけ繊細な部分もあった。「子どもの頃は泣き虫で怒られるのが怖かった」と語ったこともあったし、自らを「元々下を向きやすいタイプ」と話したこともある。豪放磊落な番長気質とは正反対の、ナイーブな一面も覗かせていた。
そんな加藤は自身の大学野球を振り返って「苦しいことが多かった」と振り返る。
2017年春には3割7分5厘、4本塁打、13打点という成績で首位打者とベストナインを獲得して大ブレイクを果たしたが、その秋は2割2分2厘、0本塁打、2打点と大きく数字を落とし、同シーズン70年振りの最下位に沈んだチームの責任を一身に背負いこんだ。
3年生でも満足のいく成績を残せず、4年春にはベストナインに返り咲いたものの、秋も開幕から不調が続き、ドラフト会議時点での打率は1割6分だった。
自分を追い込んでしまった最後の秋。
誰が見てもポテンシャルは十分。でもそれが結果に結びつかないのはなぜなのか。番記者として関係が深くなればなるほど、その理由を考える時間が増えた。そんな中で、印象に残っている彼の言葉が2つある。責任感が強く自分に厳しい加藤を象徴するような言葉だ。
1つは、「野球って難しいですね」という台詞。今秋の開幕直後に出たものだ。
早大が最後にリーグ優勝したのは2015年。つまり現在のチームには、優勝を経験した選手が1人もいない。
だからこそ「絶対に優勝」と臨んだ最後のリーグ戦だったが、気負いがあだとなり打線は沈黙。開幕から2試合連続で完封負けを喫し、自身も無安打だった。
「自分が打ってチームを勝たせたいと思いすぎていた。チームを勝たせるなんて1人ではできないのに、4番だからと理由を付けて自分を追い込んでしまった」
かつてはこうも口にしていた加藤。私の目には、責任感や勝利を渇望する思いでがんじがらめになっているように見えた。