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井上尚弥がモンスターを超えた12R。
危機が呼び起こした新たな異能。 

text by

森合正範

森合正範Masanori Moriai

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photograph byTakuya Sugiyama

posted2019/11/11 20:00

井上尚弥がモンスターを超えた12R。危機が呼び起こした新たな異能。<Number Web> photograph by Takuya Sugiyama

秒殺以上に強さを感じさせる12Rの戦いだった。井上尚弥はまだ何を見せていない力を持っているのだろうか。

井上尚弥が新たに証明した異能。

 過去18戦。井上はさまざまな「モンスター」の顔を見せてきた。

 プロ8戦目。アマチュア、プロを通じて159戦で一度もダウン経験のないナルバエス(アルゼンチン)をスピードとパワーで4度倒した。

 バンタム級初戦では、WBA王者マクドネル(英国)の動きをわずか30秒で見切って、112秒で沈めた。

 昨年10月には元WBAスーパー王者パヤノ(ドミニカ共和国)を、ワン・ツーをねじ込み、わずか70秒で大の字にした。

 3年半ぶりの判定決着。これまでのKOでは見せることのなかった、新たに証明したものが数多くある。

 アクシデントが起こったときの冷静さと対応力、ゲームプランの修正能力、タフネス、スタミナ、ファンを熱くさせた闘争心。それらすべてをボクシング人生の大舞台で見せたのだ。

冷静で、気迫に溢れ、優しかった。

 誰よりも近くで見て来た真吾氏と大橋会長。ふたりの師は半ば感嘆し、半ば呆れて言った。

「いやー、すごいよね、本当に」

 人間を超えるような能力を比喩的に「モンスター」と呼ぶ。

 もはや、井上尚弥はそうではなかった。それを遥かに超えていた。

 眼窩底骨折し、視界がぼやけ、いずれ塞がった。ピンチにも冷静に戦術を変え、最善な手を打ち続けた。最後まで気迫を前面に、あのドネアに打ち勝った。そして優しい笑みを浮かべ、そっと抱き合った。

 われわれはそれを表現する言葉を今は持ち合わせていない。

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