東京五輪仕事人BACK NUMBER
東京五輪のメダルをデザインした人。
構想1週間、作業時間はわずか半日!
text by
芦部聡Satoshi Ashibe
posted2019/11/11 10:00
川西純市さん。
この夏、東京2020大会で表彰台のアスリートに贈られるメダルやリボン、ケースのデザインが発表された。オリ・パラともメダル裏面のデザインはコンペで決まる。勝ち抜いたデザイナーに、制作過程について聞いた。
表彰台に上がることを許されたアスリートに贈られる金、銀、銅に輝く栄誉――それがメダルである。夏季五輪では表面はギリシャのパナシナイコ競技場に立つ勝利の女神ニケを描くと国際オリンピック委員会(IOC)が規定しており、これは各大会共通だ。1928年アムステルダム五輪から'68年メキシコ五輪までは裏面も「群衆に担がれる勝者」で統一していたが、'72年ミュンヘン五輪以降は開催都市が独自にデザインしている。
開会式までちょうど1年となった7月24日、大会組織委員会がメダルのデザインを発表した。公募によって選ばれたオリンピックのメダル裏面は大阪市在住のデザイナー、川西純市さんの手によるものだ。
「2017年の暮れに、私が所属している日本サインデザイン協会からコンペの案内メールが届いたんです。忙しさに追われて手をつけずにいたけど、やはり気になってたんですよね。自国開催のオリンピック、しかもメダルをデザインできる機会なんて二度とないだろうし、せっかくだから応募しようと。年明けの締切ギリギリになってエントリーシートを事務局に送りました」
参加資格の要件は、プロのデザイナーあるいはデザインを専攻する学生で、立体造形物の制作実績を持つ者。職歴やポートフォリオが審議され、421名の応募者のうち書類審査を通過したのは352名だった。
構想1週間、作業はわずか半日。
「日本在住で、日本語での意思疎通ができることも要件に入っていました。書類選考の次は平面のデザイン画による審査ですが、カラーではなくモノクロという条件がついていた。陰影の濃淡だけで立体物を表現するのは難題です。仕事の合間にスケッチを描いていましたが、うまくカタチにならない。どうしたもんかなあと思い悩んでいるうちに4月の締切が近づいてきて、直前になってエイヤッと一気呵成で描きました」
川西さんは「構想1週間、作業時間は半日」と苦笑するが、時間をかければ良いものができるとは限らない。
「提出から1カ月ほど経ったでしょうか。メダルのことなどすっかり忘れて酒を飲んでいたら、事務局から電話がかかってきて『あなたのデザインが最終選考の3作品に選ばれました』。ついては会議を開くから明日東京に来てくれと。すっかりグデングデンでしたから、明後日にしてくださいとお願いしました(笑)。会議には制作を担当する大阪造幣局の方も出席されて、私のデザイン画を立体物としてどのように再現するかを、ディスカッションしました。『光の渦が重なり合って自然に消えていく』というコンセプトと、渦のエッジの処理がキモだということを説明しました」