フィギュアスケート、氷上の華BACK NUMBER
紀平梨花も「新時代だな」と苦笑い。
軽々と4ルッツ、トゥルソワの強さ。
text by
田村明子Akiko Tamura
photograph byGetty Images
posted2019/10/28 12:00
世界最高得点で優勝したトゥルソワ(中)。2位は紀平(左)、3位は韓国のユ・ヨン。
トゥルソワは「緊張はしない」。
一方GPシリーズ初戦で初優勝を飾ったトゥルソワ。大勢のカメラマンやレポーターに囲まれても全く動じる様子もなく、常にニコニコと笑顔を絶やさない。
「永い間、シニアレベルで戦える日を待っていました。ようやくこの場に来られたのが嬉しくて、だから緊張していないんです。試合に出るのは楽しみだから、緊張はしません」
通訳を通してそう語った15歳。デビューしたての今シーズン、まだ怖いもの知らずという立場的なメリットを割り引いても、底知れない骨太の強さを感じさせる。
4サルコウの転倒の後、4ルッツを成功させたことについては、「練習では1個目のジャンプを失敗するのはよくあることなので」とさらりと答えた。
体の小さなジュニア女子が難易度の高いジャンプを軽々と跳び、体型が大人になるとジャンプを失うのは、いつの時代も繰り返されてきた歴史である。だがトゥルソワは、体の軽さとタイミングで跳んでいる他のジュニア上がりの女子とはちょっとタイプが違う。
羽生結弦もトゥルソワの4回転を評して、「どっちかというと力で跳んでいる。体幹もすごく強い」と評した。155センチの小柄な体だが、全身バネのような筋肉に包まれている。
彼女がこの後、どのようなシニア選手に成長していくのか目が離せない。
シニア女子としての矜持。
第1戦のスケートアメリカでは、アンナ・シェルバコワが4ルッツを2度成功させて優勝した。2戦目のカナダは、トゥルソワの3度の4回転で世界新が出た。
この4回転を跳ぶロシアの新人たちを崩すのは、容易ではないだろう。
だがアメリカで2位になったブレイディ・テネルも、カナダでの紀平梨花も、自分のペースを乱すことなくトップのシニア女子らしくベストを尽くした。
またこのケロウナではSPで6位と不調なスタートをきりながらも、フリー『SAYURI』では完璧な演技を滑り切り、元世界女王の矜持を見せたエフゲニア・メドベデワも忘れてはならない。あれだけの演技を見せながらも、総合5位に終わったというのは厳しい現実である。
紀平の口にした「新時代」はいよいよやってきた。今季の残りがどのような展開になっていくのか、見守っていきたい。