濃度・オブ・ザ・リングBACK NUMBER
キャリア3年7カ月の完全燃焼。
異色レスラー・テキーラ沙弥の生き方。
text by
橋本宗洋Norihiro Hashimoto
photograph byNorihiro Hashimoto
posted2019/10/10 07:30
引退を控えエモーショナルな闘いを続けるテキーラ沙弥(上)。最後の「道場マッチ」では藤本つかさと激突した。
歌舞伎町のど真ん中での大会も。
引退が近づく中、10月3日にはピースパの新宿FACE大会が開催された。
普段の会場は蕨の道場(収容人数100人ほど)。歌舞伎町の真ん中にあるFACEでの大会はスペシャル版だ。そこで沙弥はYappyと組み、雪妃真矢&ジュリアのタッグと対戦した。
Yappyはピースパ唯一の所属選手。雪妃は何度も対戦した先輩にして現シングル王者だ。引退試合でもタッグを組むジュリアとは、この日は対角に回った。思い入れのある選手に囲まれて、沙弥はリングインした時から目に涙を浮かべていた。
タッグを組む相手、闘う相手、それに会場。引退を発表してから、あらゆる面で「これが最後」になってくる。1つひとつの瞬間を噛み締めるような闘いだ。試合は必然的にウェットになるし熱を帯びる。雪妃はタイガードライバーからスノウトーンボムを決めて沙弥を下した。横浜文体でのタイトルマッチと同じ最上級のフィニッシュだ。沙弥との最後のマッチアップには、その価値があったということだ。
最後の道場マッチ、そのフィニッシュは……。
その2日後、10月5日には道場での定期戦があった。これも沙弥には「最後の道場マッチ」だ。組まれたのは取締役選手代表・藤本つかさとのシングルマッチ。最初の道場マッチで対戦した相手でもある。
昨年、女子プロレス大賞を受賞した業界の“顔”の1人と、沙弥は真っ向からの熱戦を展開した。藤本が3カウントを奪った技はジャパニーズオーシャン・サイクロン・スープレックス・ホールド。豊田真奈美から受け継いだ、やはり最高のフィニッシャーだ。
試合後には、沙弥の希望で会場にいる選手全員と1分間ずつ闘う「13人がけ」も行なわれた。思い残しなし、やれることは全部やってリングを降りたいという気持ちに応える相手選手の中には、1分間泣き続けながら技を繰り出す者もいた。
技だけでなく感情も出し切るのがアイスリボンのプロレスだ。悔しくて泣くことも、才能のあるライバルへの嫉妬をぶちまけることも、リング上ではすべてが肯定される。沙弥もやりたいことをやり、自分の感情を出し、相手の感情を受け止めて最後の試合までの日々を過ごしている。
「みんなのことが大好きすぎて、最近は毎日泣いてます」という沙弥は、藤本戦についてこんな言葉を残した。
「デビュー直後、根拠のない自信を打ち砕かれてプロレスをやめたくなっていた時に“プロレスって楽しいんだよ”というのを教えてくれたのが藤本さんとの最初の道場マッチ。今日はその楽しさの集大成みたいな試合でした。藤本さんは前に“プロレスは人の人生を豊かにする”と言ってました。確かに私はプロレスラーになったから心が豊かになりました。たくさんの非日常を経験させてもらったし、これから先こんな経験はもうないと思います。最高の、忘れられない3年7カ月になりました」