濃度・オブ・ザ・リングBACK NUMBER
キャリア3年7カ月の完全燃焼。
異色レスラー・テキーラ沙弥の生き方。
text by
橋本宗洋Norihiro Hashimoto
photograph byNorihiro Hashimoto
posted2019/10/10 07:30
引退を控えエモーショナルな闘いを続けるテキーラ沙弥(上)。最後の「道場マッチ」では藤本つかさと激突した。
「みんなプロレスやったほうがいいです」
キャリア30年を超える選手もいるプロレス界で、3年7カ月という選手生活はいかにも短く思える。ただ、本人がやり切ったと思えるなら、それが適正ではないか。30歳をすぎてデビューするのも遅くないし、3年7カ月も短くはない。「プロレスラーは〇〇であるべき」から解き放たれたところに、今のプロレスの豊かさがある。
藤本によると、沙弥には引退してからやりたいことが山ほどあるらしい。大会プロデュースが象徴するように、彼女は好奇心旺盛でアイディアが豊富で、それを実行に移す行動力もあるのだろう。
「そういう沙弥の人生の中で、プロレスに関わって生きる時間があったということが私には嬉しいです」
藤本はそう語っている。そう言えるトップがいる団体だから、沙弥はプロレスの楽しさに触れることができたのだ。
ピースパ新宿FACE大会を終えたあとで、沙弥は言った。
「プロレスめっちゃ楽しい(笑)。やばいですよ。みんなやったほうがいいです」
後楽園ホールでの引退試合では、ジュリアと組んで松屋うの&トトロさつきと対戦する。キャリアが近い、苦楽をともにしてきた選手たちとの試合を望んだのは沙弥で、そこには意味があるという。タイトルマッチも組まれている10.12後楽園大会だが、この試合がメインイベントになった。現在の沙弥の充実ぶりを見た、藤本の判断だそうだ。
【追記】
引退試合が行なわれることになっていた10月12日(土)のアイスリボン後楽園ホール大会は、台風19号接近のため中止になった。沙弥の引退試合については、日程などあらためて発表されるとのこと。
本人、また団体側にとって苦しい決断だっただろう。ただ“台風で引退が延期になったレスラー”というのも、これはこれで後々まで語られるものになるだろう。テキーラ沙弥は最後まで異例のレスラー人生を歩む。